あの人の声が聞こえる。
水しぶきの音。
木々のざわめき。
肌をぴりっと突き刺すような空気。
だけど、僕のまんなかはほっっこりと温かい。
手のひらで包んでいるマグカップのよう。
こうやって一緒に新しい年を過ごすのは何年だろう。
ひい・ふう・みい・・・・。
目を閉じて、そっと数えてみる。
「お前っ!!ホースにじゃれついたら水まきできないだろーっ!
ステイっ!ステイっ!ほら、お前の分の水入れてやるから。」
ここは、知り合いの持っているロス郊外の別荘。
賑やかな喧噪や厳かな空気がお正月らしさ、の日本とは無縁の場所。
だけど、皮膚を刺す冷たい空気は新しい時間の始まりを感じさせる。
まあるいほっこりした心を抱えて、背筋がしゃんと伸びる不思議な時間。
先ほどから大ちゃんがゴールデンレトリバーとじゃれあっている。
水まきの邪魔をされてぷんぷん怒っているけれど、どっちが構ってほしくてやってるのか。
「まーおっ!お前も笑ってばっかりいないで手伝えよ~。」
「ふふ。がんばって~~。運動、運動。」
マグカップを片手に持ったまま、ひらひらと手を振る。
「薄情者~~。後でおぼえとけよっ!」
「のぞむところだっ!」
グーで突き出されたこぶしに、こつんとこぶしを合わせる。
大ちゃんの覚えとけ、なんて、いつもお仕置きどころかご褒美でしかない。
どれだけ愛されているか、を骨の髄まで知らしめるまで離してくれない。
なーんてのがほとんどのオチW
でも、そろそろお腹も減ってきたし。
お遊びタイムも終わりかな?
「ほら。おいで?」
よくなついたゴールデンを呼ぶと、わほわほと尻尾を振ってかけてくる。
ふさふさの毛並みに鼻をうずめると、ほんのり大ちゃんの香りがする。
「お前、なんだかんだ言ってめちゃくちゃ構ってもらってたんだな。」
ホースからの水がキラキラと反射してまぶしい。
順調に水やりができて嬉しいはずの大ちゃんは、こちらをちらちらとうかがっている。
ホースをわざとぐるぐると動かしてゴールデンを誘ってみたりして。
「もーっ。構ったら邪魔扱いするし、ほおっておいたら寂しがるって面倒くさいオトコだよねっ!」
<わふっ!>
僕をみあげて、尻尾をフリフリ。
意見の一致を得て、嬉しくなる。
「さて。あのオトコはおいといて、そろそろ家に入りますか?」
<わふっ!>
僕の後をついてくるゴールデンにいつもよりちょっぴり豪華なお正月使用のごはんをあげて。
キッチンでしゅんしゅんと沸き立つ鍋をのぞきこむ。
「ん。いい具合に炊けてきた。」
色とりどりの野菜が入ったお雑煮に、おもちを投入する。
ふわりと香り立つ湯気が、視界をあいまいにぼかす。
日常のしんどいこともつらいことも全て、ほわりと包まれて癒されていくようだ。
「大ちゃーんっ!お雑煮炊けたよ~?」
「おっ!今行くっ!」
首にかけたタオルで汗を拭きながらキッチンに入ってきた大ちゃんに後ろから抱き留められた。
「今年もまおの雑煮が食べれるのって幸せだな~。」
「でしょ?感謝してよ?」
「してる、してる。言葉では言い表せないほど、してる。」
ちゅ、ちゅ。と音を立てながら頬に、耳に、首筋に落とされるキスが何よりもの証拠。
「もーっ!おもちのびちゃうよ?」
「おっと、それは困る。」
そう言いながらも離れようとしない腕に、言葉とは裏腹に嬉しくてたまらない。
・・・ぜんぶ、わかってくれている。
コトリと椅子が鳴る。
ゴールデンが僕たちの足元にすり寄ってくる。
「そういえば、今年は戌年だったね。」
「ほんとだ。」
「今年もよろしくね?大ちゃん。」
「こちらこそ、今年もよろしく。」
指先を絡めあって交わされるキス。
尻尾を振りながら、じーっと見上げてくるゴールデン。
当たり前に過ぎてゆく穏やかな日常を切り取った、一枚の絵。
ごくごくありふれていて、誰の目にもとまらないかもしれないけど、確かにここにある。
ぼくたちの、しあわせの、カタチ。
なんだ。
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くるかおちゃんのイラストよりふわっとイメージがわいてきたの^-^
この二人には穏やかな日常が似合うなーと思うの。
大まおフォーエバーだからねっ!
色をつけたくなってつけてみたけど・・・。
もっとパステルかモノクロのほうがぴったりくるかなWW
デジタルよりも、手塗りの優しい風合いがくるかおちゃんのこのイラストには似合う気がします^-^
って、勝手にいじりまくってごめんね~~。