どこをどう歩いてたどり着いたのかわからない。
ふと目の前に見覚えのあるマンションのエントランスが出現した。
全身が心臓になったみたいに鼓動が踊る。
ただの共演者を訪ねるには過ぎた緊張を自覚しながらも抑えることができない。
・・・もし、俺の欲望だったら?
ホワンを怯えさせ、傷つけ、信頼を失う。
ガオが相手役で良かった。と向けてくれた笑顔さえも消え失せる。
怖い。
カツン・カツン。
靴音が響くたびに、膨らみ切っていた熱が凍り付いてゆく。
ホワン。ホワン。ホワンワンワンワン・・・
ただ彼の名前だけが頭の中で鳴り響く。
いくつの角を曲がったのか。
この扉の向こうに、運命が待っている。
扉の前で立ち尽くしていると、急に向こうからドアが開いた。
「・・・ガオっ!来て、くれたんだねっ!」
俺が予想していたどんな表情とも違う。
弾けるような笑顔で、口元だけは今にも泣きだしそうで。
「・・・ありっ、がとっ!」
ドアが閉まるのを待ちきれないように、抱きしめられた。
肩に押し付けられた頬が濡れている。
「ガオ・・・ガオっ・・・。」
意味?答え??
ここに何をしに来たのか、なんて考える暇もなく。
歯と歯がぶつかるようなキスをしてくる。
艶めかしくひらめく舌先は俺を誘い出す。
絡み、離れ。また誘いにくる。
吐息が甘く抜ける。
「ガオ・・・ガオ・・・んっ。ふっ・・・。」
耳元を掠めるホワンの吐息が思考を奪ってゆく。
唇が何度も余韻たっぷりに離れようとするけれど、離れることができない。
お互いに言葉を紡ごうとするけれど、足りないとばかりに唇をむさぼる。
「ホワンっ・・・。」
ぐいっと頭を抱え込むと、記憶よりも小さく硬い手触りに驚く。
撮影だから、とどこか遠慮していたのだろうか。
ここが僕の居場所だ。とばかりに手のひらになじむ。
指の間をサラサラと髪が滑り語り掛けてくる。
「ガオ。好きだよ。ずっとずっと好きだったんだよ。」と。
「ごめんな。気がつかなくて。」
いや。気がつかなかったんじゃない。
ホワンに惹かれている。と認めるのが怖かったんだ。