「ただいま~。」
玄関のドアを開けて声をかけるけど、返事がない。
おっかしいなあ。鍵は開いてたから、大ちゃんはいるはずなんだけど。
「大ちゃ~ん。ただい・・・ん?」
ペタペタとスリッパの音が廊下を鳴らす。
足跡の行先を読んだかのように、床に一枚の紙きれが置かれてある。
「なになに?ここで、靴下とパンツを脱ぐこと??」
意味不明の内容ながらも、筆跡は見覚えのある流暢な文字だ。
リビングでもバスルームでもなく、どうして玄関先でおひとり様で下半身まるだしにならないといけないのか。
変態ちっくではあるけれど、わざわざ置手紙があるということは、何か意味があるんだろうと素直に従う。
「おっと!」
脱いだ洋服を拾い上げ、先に進もうとするとまたメモを踏みつけそうになる。
「ちなみに脱いだ服はその場に置いてゆくこと。」
・・・なんだろう?
もしかして、新しい服のプレゼントがあるから、とかそういう趣向だろうか。
うーん・・・。でも、今日は特別な記念日でも誕生日でもなんでもない。
いつもならば、そのままリビングに直行するのだけれど、床に点々と矢印のついたメモが貼ってある。
示す先は・・・・バスルーム。
脱衣かごには、アロマの甘い香りのするボディーオイルが並んでいる。
「お好みのものを手に取ってください。」
・・・ああ。なるほど。
疲れた俺をアロマで癒してあげようとかそういう嗜好・・・。
下半身まるだしの意味はよくわかんないけど、まずは解放感から、ってところだろうか。
「オイルの種類が決まったら、シャツも脱いで全身に塗ってください。」
・・・ああ。なるほど。
解放感は大切だけど、先に全部脱いでしまったら風邪をひいちゃうからか。
やーっ。大ちゃんってこういうところまで気配りの人間なんだなあ。
しみじみ。
恋人の優しさをかみしめながら、オイルを全身にまんべんなく塗ってゆく。
バスルームのドアを開けようとすると、フリルたっぷりのエプロンがかかっていた。
「どうぞ、お使いください。」
・・・・???
さすがにこれはわかんない。
どうして今から風呂に入るのにわざわざエプロンがいるのだろうか。
・・・あっ!オイルで壁や床が汚れたら困るから??
それとも、単純に大ちゃんが手料理をふるまってあげようと思って間違えて置いた?
意味はわかんないまま、取り敢えずエプロンをしてバスルームに入る。
「わっ!」
思わず感動の声をあげたのは、浴槽にも床にも一面に深紅の薔薇の花びらが敷き詰められていたから。
甘い香りが鼻孔をくすぐり、ボディーオイルの香りと混じってなんとも言えないオリエンタルでエキゾチックな気分になる。
「・・・なんだか、旅行に来ているみたい。」
以前、撮影で行った高級ホテルのバスルームと南国の香りが脳裏をかすめる。
「なんだか、もったいないなー・・・。」
床に膝をつき、バスタブに浮かんだ花びらが織りなす模様に腕を入れる。
ゆっくりとかき混ぜるたびに、ゆらゆらと揺れ表情を変える。
「・・・そっか。」
膝をくすぐる柔らかな花びらの感触がものすごく気持ちいいのに、エプロンのお陰でバスタブに接してる部分は冷たくない。
俺の行動まで予測してエプロンまで用意してくれるなんて、やっぱり大ちゃんは完ぺきだ。
じーん・・・。
お湯と香りと花びらの感触に癒されると感覚と同時に、大ちゃんの優しさがしみ込んでくる。
するり。
エプロンのリボンが滑らかにほどける。
サテンかシルクか。
素肌に気持ちいい上質の素材であることがわかる。
「・・・って、大ちゃんっ!!」
湯船に浸かろうとして、背中にぬくもりを感じてやっと尋ね人と再会する。
「気にいったか?」
腰にくる低音ボイスでささやかれ、反応してしまった部分を隠そうとするけれど、エプロンはすでに膝の下でしわくちゃになっている。
「・・・いたんだったら、教えてよ。」
背後からいたずらをしかけてくる指先を身をよじってかわす。
完璧な癒しコースを堪能していた様子を観察されていたのかと思うと、照れくさい。
「・・・ありがとね。」
それでも、お礼は言っておきたい。
ぽそり、とつぶやくと意味深な含み笑いとささやきが耳元に吹き込まれる。
「お礼を言うのはこっちのほうだ。こんなにおいしそうに仕上げてもらって・・・。」
薔薇の花びらのようにやわらかだけど、薔薇にはこんなぬくもりはない。
首筋に押し当てられたのは、くちびる。
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まあ、みなさんお気づきでしょうが、某有名作品のパクリです(笑)
以前にネタだけ思いついて、メモに入っていました。
あまりに放置すると忘れそうなので、ひとまず書き始めてみましたW
ちょっと入学やら卒業やら、義理母が落ち着いてきたと思ったら実父の手術やら。
で、ゴタゴタ・バタバタしています。
なので、一気には書けないのですが、少しずつ書いていけたらなあ、と思います^-^
もうオチは見えてるでしょうが、お付き合いくださいませ。