慣れたつもりでも、埋められないものがある。
目覚ましで起きることも、冷たい布団に入ることも。
気合の入った朝食を、自画自賛しながら食べることも。
独りで地方公演の準備をすることも。
慣れたつもりになっていたけど、いつもの習慣がないと忘れ物をしたような気がして落ち着かない。
俺がいない間に何かストックが足りなくならないか、とか。
ちゃんと独りで起きれるか、とか。
朝のエアコンのタイマーはセットされているか。とか。
インスタントばかりにならないか、とか。
心配性だとか、過保護だとか、文句を言われながら。
うざい、と時には思春期の子供のような言葉を発しながら。
それでも、愛する恋人のことを想う気持ちは伝わっているのか、照れくさそうにしながらも最後はありがとう。と言ってくれる。
「あー・・・。そうだ。まおはいないんだっけ。」
冷蔵庫に保存のきく食材のストックを入れようとして気が付く。
身の回りのものだけ詰めればすぐに出かけられるんだから、身軽になって楽なはずなのに。
軽くなったぶんだけ、ぽっかりと空虚な穴が開いたようだ。
「娘が嫁に行くってこんな感じかなあ。」
産んだこともないのに、親心とやらが理解できる気がする。
「わがままだなあ。しょーがないなあ。甘えただなあ。」
自立したがるアイツを、そんな言葉で構い倒していた。
「寂しい思いさせるけど、行ってくる。」
「寂しくないよお。ほら、さっさと用意して出るっ!遅刻するよっ!」
ばしっ!と背中をたたいて気合を入れてくれたアイツはここにはいない。
「やっぱ、お前らも寂しいよな。」
食器棚に並んだ夫婦茶わんの片割れ。
洗面所に並んだ乾いた歯ブラシ。
冷たいままの向かい合った椅子。
そこかしこにアイツの気配が残っているだけに、いつまでも埋まらないのかもしれない。
それでも、待っていたくて。
やっぱり、ペアで揃えてしまうのだった。
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暗くてごめんなさいW
多分、二つあるなにか。
用意しようとしてしなくていいと気が付く。
そういうことがあるんじゃないかな、と思います。
たぶん、まお君はそんなに世話やきなタイプじゃなさそうだから、大ちゃんはもともと自分で用意してたと思うから困ることはない気はするなあ。