「それじゃ、行ってくるよ~。」

「えっ!ちょっと待っへっ!!」

 

いつものように稽古に出かけようとすると、まおが慌てて飛び出してくる。

 

「もうひょっとだから~~。」

 

ふわもこフリースの部屋着に頭にはターバン。

デコ全開にして髪の毛はトップでまとめられている。

・・・そして、手には歯ブラシ。

 

「いいよ。そんなに急がなくても。」

「ひゃって、大ちゃん行っちゃうでしょ?」

 

お互い不規則な生活なのだから、律義に毎回見送らなくても、と思うがまおの譲れないことのひとつならしい。

 

すりっぱの音をぱたぱたさせながら洗面所に向かってゆくどこが尻なのかわからない細っこい尻を眺める。

 

「ゆっくり寝てればいいのに。」

 

今日は何も予定がないと言うものだから、昨日は・・・いや、昨日も大いに励んでしまった。

なのに俺を見送るためにわざわざ朝から起きだしてきては、休日の意味がない。

 

「お待たせー・・・って、わっ!!」

 

何に驚いたのかわからないが、驚きの声と共にぎゅうっ!と抱き着かれる。

 

「なんだ?どうした??」

「・・・・かっこいい・・・・。」

 

「はあ。それはどうも。」

 

毎日見ている顔だろうに、どこに惚れスイッチがあったのか。

しょっちゅうあるまおの惚れスイッチは正直反応に困る。

 

「大ちゃんって身長あるからロングコート似合うよねえ。」

「・・・あ。コートね。」

 

まおを待っている間に、コートを羽織り、マフラーを巻き、手袋をはめていた。

 

「んふふ。ちょっとだけ・・・。」

 

ぽすんと胸に顔をうずめてきたまおが、コートの合わせを緩めだす。

 

「ちょっとだけだぞ。」

 

毎回毎回こういうことになるから、支度は時間に余裕を持ちすぎるぐらい余裕があっていい。

出かける何時間前に起きるか、と聞かれ、男性なのに随分余裕をもって起きるですね。と驚かれたことがあるが。

・・・まあ、こういうことだ。かわいい恋人をもつ特権とも言う。

 

「・・・大ちゃん・・・。」

「なんだ?」

 

「コートの下はこれってどーいうこと?」

 

はがれたコートの下には、軽くてかさばらないともっぱら評判のダウンジャケット。

 

「ああ。これあったかくていいんだぞ?」

「ええーっ!ロングコートの下はやっぱりカッターシャツにスーツでしょ!」

 

・・・って、どこのサラリーマンだ。

稽古場にスーツを着ていくヤツがいるか。

 

つまんない・・・。ネクタイ緩める楽しみが。とかブツクサ言っていたまおが急にきらりんと瞳を輝かせる。

 

「ねねっ!これ、シャメってブログにアップしていい?」

「はあっ?」

 

「絶対ファンの人ゲンメツするよ~。渡辺大輔はコートの下はダウンジャケットです。ってばらしてやろっと。」

 

おい。

幻滅させてどーすんだ。

 

「あ。でも大ちゃんのファンの場合、プライベート感があって素敵。とかって余計にメロメロになっちゃうかなあ・・・。」

 

うーん。

と、すでにシャメった画面を見ながら悩んでいる。

 

「・・・そんなに変かな?」

 

稽古着にいちいちお洒落は追及しないほうだが。

まおに幻滅されるのは気になる。

 

「ううん。風邪ひいたら大変だもんねっ!

大ちゃんはスーツだろーが、よれよれの部屋着だろーが、いびきかいてよーがかっこいいよ!」

「・・・かいてたのか?」

 

「あ。うん。夕べね。疲れてたんだよね?」

 

がーん。がーん。がーん・・・。

 

人間なんだから仕方のないこととは言え、無意識の失態というものはどうにも恥ずかしい。

それこそ幻滅対象ではないか。

 

「疲れてたのに・・・ありがとね。」

 

意味深に頬を染めるまおは、夕べの励みを思い出しているようだ。

 

「じゃあ、いってらっしゃい。」

 

名残惜し気に抱き着いてきた腕がほどける。

やっぱりもう一度、と戻ってきた腕に首をひきよせられる。

 

触れ合うだけのキスが、角度を変えるたびに深くなってゆく。

 

 

「愛してるよ。」

 

やっと離れた瞳はどこまでも澄んでいて。

 

自分を演じなくても愛される深さと安心感に浸るのだった。

 

 

 

 

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む、むずかしかった・・・。

途中どっちに舵をきっていいのやらわかんなくなってふらふらしてしまった感じがそのまま文章になってしまっておりますが。

 

もともとは「ファンにいいつけてやる!」

「ファンは幻滅するのか?お前はどーなんだ?」

「どんな大ちゃんでも好きだよお。」

 

ってなネタだったんですけどね。

 

これ、職場の私の大好きな憧れの69歳のおじさまからのネタです(笑)

ダンディーで関西出身なのに、明治大学からしばらく関東にいたこともあってか標準語で。

生まれながらのタラシなのか、レディーファーストで細かい変化にも気が付く。

でも、年齢のせいか?全然ギラギラしてなくて、むしろ枯れている。

 

そこが、素敵////

 

な、おじさまがロングコートでご出勤。

 

けど、ロングコートの下にしっかりライトダウンを着こんでらっしゃってW

やっぱり寒さには勝てないのね。幻滅だわあ。と、はしゃいでいたのでした(笑)

そう。幻滅と言いながら結局はしゃぐWW

 

ロングコートにスーツは乙女の永遠のロマンスよねっ!!!

と思うのは私だけかしら??