<大ちゃん舞台終わった?終わったらソッコー帰ってきてね!>

 

カーテンコールも終わり、汗だくのまま楽屋に帰ってきたらラインの着信ランプが光っていた。

千秋楽ならいざ知らず、皆明日を控えている身だ。

初日にいきなり食事に誘われたりすることは滅多にない。

まおだって舞台に立っていた人間なのだから、説明しなくてもわかっているだろうに。

今日に限ってわざわざ連絡を入れてくるなんてどうしたんだろう?

 

サプライズを用意したけど、黙っていられずに催促しているのか。

新しい服かインテリアものを買ってきて、早く見せたいとか。

 

独りで急に悶々としてきて、お相手をしてほしい、とか・・・。

だったら、大ちゃんソッコーで帰っちゃうけど。

まあ、まおに限って言えばそんなことはありえない。

言葉に出さずにじーっと待っていて、気が付かないと拗ねるヤツなのだから。

 

 

<終わったけど、まだメイクも落としてない>

<わ!ほんと?髪もそのまま?>

<髪どころか衣装も今から脱ぐよ>

 

見えなくても、見える。

文面が浮かれていて、まおの瞳もキラキラッと輝いていることだろう。

 

<何?何をご所望で?まお様>

<衣装のままシャメってよ。んで、今日はヘアメイク崩さずに帰ってきてね!>

 

・・・え。

シャメはいいとしよう。シャメは。

だが、ヘアメイクそのまま、って・・・。

 

<赤毛だぞ?ロン毛だぞ?絶対ヤンキーに間違われる>

<大丈夫だよお。30過ぎたヤンキーなんていないし。バンドかなんかしてるんだね。って思ってくれるよ>

 

なるほど。

 

納得してしまうには無理があるのに、まおが言うとそう思えてしまうから不思議だ。

だが、さすがに電車はなー・・・。タクシーでも使うか。

まおのわがままのために贅沢しちゃうことになるけど。

・・・ここのところまおが食事を作ってくれている分、外食が減っているからいいか。

 

なーんて所帯臭いことを考えながら、衣装を脱いでゆく。

 

ディボルトから渡辺大輔へ。

渡辺大輔から大ちゃんへ。

 

舞台の上で別の人間を演じていたのに、まおと会話するとするっと30過ぎたただの恋する男になる。

 

 

タクシーで帰路につくと、まおが玄関から転がり出るように迎えてくれた。

 

 

「わっ!めっちゃ早かったねえ!!」

「お前がソッコーで帰って来い。っつったんだろ?」

 

「もしかして、タクシー?」

「当たり前だろ。この格好で電車乗れるか。」

「なーんだ。一刻も早く会いたかったのかと思った。」

 

はっ。失敗した。

ついつい素直に答えてしまったが、ここはお前に会いたかったからだと言っておくべきところだった。

 

アセアセ。

 

今更「会いたかった!」と抱きしめるのもわざとらしい気がして、どうしたもんかと手が宙に泳ぐ。

 

「でも、早く会えてうれしいっ!!」

 

俺のアセアセを押しつぶすようにぎゅぎゅーっとまおが抱きついてくる。

 

 

「この髪型、生で見たかったんだよねっ!ポニーテールっ!

大ちゃんは短髪のほうが普段は似合うけど、舞台の上ではこういう貴族っぽいのが似合うよねえ。」

 

うっとり。

 

擬態音が聞こえてきそうなまなざしで見つめられると、長年の付き合いとは言え照れてしまう。

 

「なんだ。今頃惚れ直したのか。」

「・・・うん。惚れ直した。」

 

照れ隠しの冗談だったのに。

感情表現がストレートなまおは直球で返してくる。

 

「・・・そっか///」

 

大の男二人がうっとりと見つめ合って照れている。

ハタから見れば滑稽そのものなんだろうけど。

 

 

こればっかりは慣れるものではないらしい。

 

 

 

 

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メイクのまま帰れるわけないじゃん!とかってツッコミはご遠慮くださいWW

私が見たいんです。この大ちゃん!!