バタバタの帰国から一夜。
親戚周りやらなんやらを済ませていると、大ちゃんに会えたのは夕方になってからだった。
「でさあ。まだお年玉くれるんだよ。
もうあげないといけない年なのにねっ!」
「そりゃ、お前が学生だからだろ。
親戚からみればいくつになっても子供だろうしな。
俺ぐらいの年になれば、ばら撒くばっかだよ。」
「・・・なんか不思議。そっか、そうだよねえ。
大ちゃんってお年玉をもらうおじさんでもおかしくないんだ。」
「お前、そこしみじみかみしめるなよなー・・・。」
他愛のない会話をしながら振動に揺られる。
人に疲れた、と愚痴をこぼすと、ドライブに誘ってくれた。
1月の昼は短い。
大ちゃんの横顔を夕日が染めてゆく。
「早く独り立ちしたいなあ。焦りは禁物だってわかってるんだけど。」
「大丈夫だよ。まおは努力家だから、必ず実になるさ。
いつも言ってただろ?どんな経験も無駄にはならないって。」
「だよね。わかってるんだけど自分より年下の子がどんどん活躍してるのを見てるとさ。」
以前は大ちゃんの隣に並びたくて必死で背伸びしていたけど、最近は素直に弱さを吐き出すことができる。
付き合いの長さがそうさせるのか、違う道に進んだからこそ同じ土俵で比べなくなったからか。
落ち込みがちな気持ちをふっとかき消すように大ちゃんが笑う。
「お前がそれ言うか?俺がどれだけ9歳も年の離れたお前に嫉妬してたかわかるか?」
「・・・・え?」
初めて聞いた告白に驚いて隣を見ると、穏やかな表情のままだった。
「まあ、それが原動力になって負けてらんねー。って頑張ってこれたからな。
いいんだよ。焦って。悔しがって。
・・・ま、お前は器のちっちぇー男って思うかもしれないけどな。」
「・・・そんなことっ!」
思わない。
いつも上を目指して、努力家で。
愚痴を言わずに、人生を楽しんでいるように見えた。
俺のことも子供扱いすることもあったぐらいで、大人の余裕たっぷりだと思っていた。
だけど、大ちゃんだって焦って、苦しんで。
それでも大人であろうと俺のために頑張ってくれていたんだ。
「・・・ごめんね。今まで散々甘えて。」
「ばかだな。お前は。」
言ったそばから甘えたくなって、大ちゃんの左腕に頭をすりよせた。
「・・・あ、神社。」
「へえ。寄ってみる?」
夕日に染められた鳥居は神々しくて、それだけで神聖なものに感じる。
ひんやりとした石畳は静かに不変に歴史が刻まれていることを感じさせる。
長く伸びるふたつの影が重なりあって、ひとつの塊になる。
「ふふっ。くっついたね。」
「だな。」
手を繋いで、腕を絡めあって、腰に手を回して。
離れていた魂が少しづつ近づき、理解しあえたぼくたちのようだ。
参拝を済ませてからのんびりと石畳を歩く。
「・・・ねえ。日本の神様ってニューヨークまで来てくれるかな。」
「どうだろうなあ。イマドキの神様はワールドワイドなんじゃないか?」
「だといいんだけど。」
「大丈夫だよ。俺がちゃんとお前のぶんもお願いしといてやったから。」
「そうだね。」
ぼくたちの一部は重なりあっている。
時間をかけてゆっくりと変化する影のように。
「・・・あ。」
「なんだ?」
帰り道に連なってたっている「安産祈願」ののぼりを見つけた。
「なんか、定番だねえ!」
「だな。」
あははっ!と二人で声をあげて笑う。
「まあ、大丈夫なんじゃね?最近の神様は時代のニーズに応じてワールドワイドで手広く手掛けてるよ。」
「かもねっ!リスク回避の時代だもんねっ!」
神様が聞いたら怒りそうだけど。
なんとなく、一緒に笑ってくれているような気がした。
村人の願いをなんでも聞いてくれる、心の広い神様のような気がしたんだ。