「うーっ。今日も寒いなあ。」

 

独り暮らしにはやや広い部屋は朝の暖房が効きにくい。

まおが置いていったスチーム付きのストーブのスイッチを入れて、冷水がお湯に変わるまでを鏡をのぞきながらぼーっと待つ。

 

「髭そらなきゃ。」

 

体毛の濃いほうでない俺は、毎朝剃らなくてもなんとかなる。

舞台中ならまだしも、稽古中はどうしてもおざなりになりがちだ。

 

アイツがいた時は口うるさく注意されたもんだが・・・。

 

 

 

ピロン。

 

軽快な音と共にスマホのランプが灯る。

ラインの着信音は聞き逃してしまうことが多いのに、まお専用の音だけは敏感に拾ってしまうから不思議だ。

 

泡のついた顎をタオルで乱雑に拭い確認する。

また最初からやり直しになるのに、すぐに見たい欲求のほうが勝ってしまうのだから、まおのチカラは絶大だ。

 

「・・・ぷっ。」

 

送られてきたのは、タイで購入したひらがなパンツを着たまお。

だけでは、見慣れた光景だが。

 

NYで新たに親しくなったのだろう友人が、みなひらがなやら漢字やらの文字の入った服を着ている。

 

黒鯛・ひじき・らーめん・・・って食べ物ばっかじゃねーか。

海人、あ、これは日本でもよく見るな。

夜露詩駆・・・・ってヤンキーじゃねーか、しかもびみょーに後半違うし。悪さ半減だな。

 

<ホームパーティーに着て行ったら、なんだか大人気でさ。

やっぱひらがなとか漢字って人気あるんだねえ>

<日本人としては嬉しいんだか、間違って理解されているような気色悪い感じなんだか>

<あははっ。意味はわかってないからね。

でも、超クールでアメイジングだって盛り上がってるよ>

<・・・そうかWW>

 

なんてやりとりをしているうちに、俺もまおとお揃いで買ったひらがなパンツが懐かしくなってきた。

 

 

「・・・はよっ!」

 

ロミジュリの稽古真っ最中、キャピレット家を継ぐディボルトは逆立ちしたってこんなものを着ないだろうが。

自分の中では超クールでアメイジングな勝負服のような気分で意気揚々と稽古場のドアを開けた。

 

「・・・どうしたの?大ちゃん。変な・・・いや、ラクそうでいいね。」

「誰かのお土産?そういえば、最近フランスで飛び職の作業着がお洒落だってはやってるらしいね。」

 

口々に声をかけられ、まおとのペアを褒められたような気がして気分上々だ。

 

「ああ。タイで友達と一緒に買ったんだ。

フランスはどーか知らねーけど、ニューヨークではクールでアメイジングならしいぞ。」

「・・・へー・・・・。」

 

ふふん。とばかりに自慢してやったが、なんだか微妙な反応だ。

 

 

タイで買ったのに、どうしてニューヨークで大ブレイクなんだろうね。

みんなの頭に???が浮かんでることなんて露知らず。

 

ゆんだけが、稽古場の片隅で肩を震わせて爆笑していた。

 

 

「大ちゃんってわかりやすいよね。

まおくんから連絡あった?

いやー、ほんとぶれないよね。色んな意味で。」

「なんでわかるんだ?」

 

笑いで涙を浮かべたゆんが、ぽんと肩をたたいてまだ爆笑している。

 

「いや。ほんと好きだよ。大ちゃんのそういうところ。」

「俺はまお一途だ。」

 

更に爆笑したゆんがひらひらと両手を振って降参のポーズをとる。

 

「わかってるよ。宣言しなくても。」

 

かつて誰よりも一番だった親友。

今でも俺のことを一番に理解してくれてるんじゃないかと思う時がある。

 

 

家を背負う重み。

恋と自由を求め、苦しんだロミオとディボルト。

正反対の敵に見えて、たぶん、理解し合えるのはこの二人しかいなかったのではないだろうか。

 

ゆんの爆笑する姿を見て、ふと、そう思った。

 

 

 

 

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前半と後半で違う話になっちゃったWW
タイトルに悩んだけど、思いつかないので仮題のままW

最初はロミジュリに絡めるつもりなんて全然なかったんだけど。
稽古場になるとどうしても真面目大ちゃん部分がでてきてしまうんですよね。


ちなみに。
ネタを思いついたときのメモはこんな感じでしたW

 

まおがシャメで送ってくる。

NYで大人気。

大ちゃんも差gして着る。

 

おみやげ_?

タイの。

 

NYでクールでアメージング。

タイ土産でNY???

 

わかっているゆんだけが爆笑。