イヤホンから流れてくる音楽と、ゆらゆらと心地い揺れが眠気を誘う。
いよいよ冬休み・・・の前に、連日のテスト最終日とあっては無理はないだろう。
成績は中の上ってところだけど、努力なしに維持できているわけではない。
ごくごく平均的な高校2年生だと自覚している。
ガタンっ!
大きく電車が揺れて、甘い香りとともに視界がチャコールグレーで覆われる。
「・・・ん?ここ、どこだっけ?」
顔をあげると、彫刻のような整った顔立ちの男が、
いかにも大切に使ってますといわんばかりの使いこんだ皮のカバーのかかった本を手に
立っていた。
ごくごく平均的な、ごくごくありふれた日常の通学風景。
・・・のはずだったのだけど。
目の前の男性がどっかのモデル雑誌から抜け出たような容姿であったため、
通い慣れた電車であるということを忘れてしまう。
「あ、すみません。当たりました?」
「・・・いえ。」
ぼくの顔を覗き込むようにして語りかけてくる声は、これまた胸の奥がほわりとするような
甘く低いテノールだ。
彫刻のようだと感じた顔は、言葉を発した途端にふわりと崩れてひだまりのようなあったかささえ感じる。
「つい、熱中してしまって。起こしてしまったのなら、ごめんね。」
「いえ、ちょうど次の駅で降りるところだったので。むしろ、助かりました。」
本当は、あと3駅もあるのだけれど、彼に気を使わせるのが悪いような気がして
とっさに嘘をついた。
「ああ。そうだったんだ。よかった。」
ほっとしたように表情をゆるめる彼に、自分がそんな表情をさせたんだと思いうれしくなる。
再び手元の本に視線を戻した彼の顔を、本の隙間からちらちらと伺う。
たまたま電車で乗り合わせただけの赤の他人に、これ以上の会話の発展もあるわけもない。
あんなに心地よかった眠気もすっかり覚めてしまい、無意識に次の言葉を待っている自分に気がついて落ち着かなくなる。
どうしよう・・・。
再び眠るわけにもいかず、一旦意識してしまうとどんな表情でいればいいのかもわからず。
そわそわと手元のipodをいじっていると、頭上から声が降ってきた。
「・・・着いたよ?降りなくていいの?」
「・・・あっ!ありがとうございます!」
自分がついた嘘をすっかり忘れていたぼくは、いつもの慣習から聞きなれない駅名をスルーしてしまっていた。
慌てて飛び降りようとすると、力強い力で腕をつかまれた。
「忘れ物だよ?」
「わっ!すみません!!」
貴重品などの入っているセカンドバックは胸にかかえていたものの、カタチばかりの学生鞄は存在が薄い。正直あってもなくても存在ではあるけれど、この鞄がないと服装チェックを通らない。このときばかりは、形式大好きな典型的日本人学校に通っている自分に感謝する。
ぷしゅ。と目の前で扉が閉まったかと思うと、笑みを浮かべた彼がひらりと手を振った。
呆然。
なんだかたった数分の間に色々おこったような気がする。
テスト明けの寝不足な頭では、現実を整理するこができず。
妙に火照った頬と、胸の鼓動に翻弄されるのだった。
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この間、梅田に行ったときになかなか素敵な男子二人(赤の他人っぽい)
が隣あって立っていて、スマホをいじったりすると腕が触れ合うような距離で。
内心ドキドキしてたりして。
あー・・・。定番だけど、電車が揺れて壁ドンとかないかなあ・・・。
とか、相変わらずな妄想をしておりました。
せっかくなので、大まおっぽくお話しにしてみたけど・・・。
お話しとして考えたわけじゃないので、続きません、とか言ったら怒る??(笑)