「・・・で?」
「で、って・・・。」
昼を少し過ぎたほどよくざわめきのあるカフェで、向かい合った男の顔を真行寺はじっと見詰めた。
そっけない言葉とは裏腹に、相変わらずはっとするような美貌の年上の恋人だ。
叶わない恋だと見詰め続けていたことを思えば、こうやって向かいあっているだけで幸せなはずだ。人間というものは、手に入れると、もっと手に入れたくなる生き物なんだ、と受験勉強のせいで日に焼けていない首筋を目にして思う。
「これからの予定ありませんか?」
三洲の医大の合格発表の報告とともにカフェに誘った。
カフェでお茶をするのが目的でないのは、目の下のクマが語っている。
「どうしてこんなものがあるのか、って聞いてるんだけど。」
「どうして、って・・・。」
どうして、がお前と、なのか、目の前の豪華ディナーつきクルージングのチケットを修飾しているのかに悩む。
・・・どっちでも、凹むけど。
三洲の真意を計りかねて、テーブル差し出したチケットをぐるぐると丸める。
歓喜のハグとまでは期待してなかったけど、ここまで不機嫌になるのも正直予想外だった。
「・・・気にいらなかった?」
「目の下のクマと、ここのところ電話が繋がらなかった原因だとするならな。」
腕を組んだまま憮然とした表情で俺を見詰めるアラタさんは、不機嫌でもやっぱり美人だ。
・・・って、アラタさんと付き合いだしてからというもの、Mっ気が増した気がする。
窓の外に視線をやりながらコーヒーを一口飲み、大きなため息をつく。
ほんとにしょーがないんだから。
そう、彼の唇が動いた気がした。
「ほら。行くぞ。真行寺。」
「・・・えっ?えっ??」
伝票をさりげなくかっさらうと、あっと言う間に見とれていた横顔が背中に変わる。
「行くんだろ?ナイトクルージング。」
伝票かと思っていた紙切れとともに、アラタさんの手にはしっかりとクルージングのチケットも握られていた。
「いいんですかっ!?」
「いいもなにも、この時間からキャンセルもできないだろう。」
「・・・ありがとうございますっ!!」
ひらり、とロングのスプリングコートを翻した耳たぶがほんのちょっぴり染まっている。
・・・なんだ、なんだ、なーんだ。
アタラさんってば、俺と連絡がとれなかったことに妬いていただけなんだ。
「・・・アラタさん、大好きっ!!」
「・・・バカっ。道端でじゃれつくな。ほんとお前は犬みたいだなあー・・・。」
カフェを出た途端に、ついつい抱きついてしまった俺を、文句を言いながらも振り払わない。
許されている。
この人に。
「あーっ。もう、俺、幸せっす!」
「目の下にクマ作っといて、おかしなヤツ。」
「だからっすよ。アラタさんのためにがんばってるんだ~。って思ったら、楽しかったっすよ。バイト。」
「・・・やっぱ、バイトだったんだな。」
・・・あ。墓穴。
しがない一般家庭の高校生が自由にできるお金なんてたかがしれている。
全寮制のため、普段はバイトをすることさえままならない。
冬休みの間、何もすることがなければアラタさんの声が聞きたくて受験勉強の邪魔をしそうだったし、合格したら合格したで離れ離れになってしまう寂しさからじっとしていられなかった。
帰省すれば、昼間は地元の友人との付き合いもあるし気も紛れるのだけど、夜になって部屋でひとりきりになるのが辛かった。
別に、無理をしたわけじゃない。
自分のためにしたことだった。
贅沢すぎるディナーで腹を満たした後、並んで夜景を眺めながら海風に吹かれていると三洲がぼそっとつぶやいた。
「お前さ。背伸びしなくても、ちゃんと待ってるから。」
「・・・え?」
アラタさんにはそういうふうに見えていたのだろうか。
背伸びさせている、と気を遣わせていたのだろうか。
ゆらゆらと揺れる視線を感じとったかのように、俺の頭をくしゃりと撫でる。
「・・・バーカ。そういう意味じゃねーよ。」
ふわり。と包み込むように微笑まれ、ここのところ緊張しっぱなしだった糸がぷつりと切れる。
「・・・だって、遠距離恋愛になっちゃうし、医大生だし、住む世界が違うってゆーか。
だからって、おっかけて同じ大学行けるほどの学力も目的もないし・・・。ふらふらしている頼りない存在だな。俺。って思ったら情けなくて、不安で。」
「・・・だから、豪華クルージング?」
「・・・おかしい?」
短絡的だなあ。お前。
先程の不機嫌とはうって変わって、小さく噴出しながら、再び頭をくしゃりと撫でる。
「そうだなあ。お前の白衣姿ってのも見てみたい気もするけど・・・。
お前のその人懐っこい性格は狭い世界に立てこもってるよりも、営業とかのほうが向いてるんじゃないか?」
日向のようなお前に惚れたんだし。
声にはしなかったものの、三洲のやわらかな横顔が語っていた。
「・・・もっと愛されている自信持てよ。」
「・・・えっ?何?よく聞こえなかった。・・・もう一回!」
「そんなに何回も言うかよ。馬鹿。」
「え~。アラタさんの意地悪っ!」
ブルン、と急に震え出したエンジン音と海風に流されて消されてしまったけど、遠くをみつめたままつぶやいたアラタさんの言葉はしっかり俺の胸に届いた。
背伸びしたり、甘えたり、許されたり。
アラタさんが見ている世界からすれば、俺はきっとすごくつまんない存在だろうけど。
「寒いな。入るぞ。」
「えっ?もう??せっかくの夜景なのに~~。」
急に寒がりになって耳たぶをほんのり染めている彼だけを信じることにしよう。
---------------------------------------
急に真行寺×三洲ですWW
・・・はっ。しかもキスさえもなかった・・・・。
やっぱ年下わんこ攻め×クールビューティー年上受け好きだなあ。と思ってW
大まおばっかり描いていたのですが、本来はこういう関係性が好み////
大まおを待っていただいていた方には、久しぶりのお話がタクミクンでごめんなさいっW
「で、って・・・。」
昼を少し過ぎたほどよくざわめきのあるカフェで、向かい合った男の顔を真行寺はじっと見詰めた。
そっけない言葉とは裏腹に、相変わらずはっとするような美貌の年上の恋人だ。
叶わない恋だと見詰め続けていたことを思えば、こうやって向かいあっているだけで幸せなはずだ。人間というものは、手に入れると、もっと手に入れたくなる生き物なんだ、と受験勉強のせいで日に焼けていない首筋を目にして思う。
「これからの予定ありませんか?」
三洲の医大の合格発表の報告とともにカフェに誘った。
カフェでお茶をするのが目的でないのは、目の下のクマが語っている。
「どうしてこんなものがあるのか、って聞いてるんだけど。」
「どうして、って・・・。」
どうして、がお前と、なのか、目の前の豪華ディナーつきクルージングのチケットを修飾しているのかに悩む。
・・・どっちでも、凹むけど。
三洲の真意を計りかねて、テーブル差し出したチケットをぐるぐると丸める。
歓喜のハグとまでは期待してなかったけど、ここまで不機嫌になるのも正直予想外だった。
「・・・気にいらなかった?」
「目の下のクマと、ここのところ電話が繋がらなかった原因だとするならな。」
腕を組んだまま憮然とした表情で俺を見詰めるアラタさんは、不機嫌でもやっぱり美人だ。
・・・って、アラタさんと付き合いだしてからというもの、Mっ気が増した気がする。
窓の外に視線をやりながらコーヒーを一口飲み、大きなため息をつく。
ほんとにしょーがないんだから。
そう、彼の唇が動いた気がした。
「ほら。行くぞ。真行寺。」
「・・・えっ?えっ??」
伝票をさりげなくかっさらうと、あっと言う間に見とれていた横顔が背中に変わる。
「行くんだろ?ナイトクルージング。」
伝票かと思っていた紙切れとともに、アラタさんの手にはしっかりとクルージングのチケットも握られていた。
「いいんですかっ!?」
「いいもなにも、この時間からキャンセルもできないだろう。」
「・・・ありがとうございますっ!!」
ひらり、とロングのスプリングコートを翻した耳たぶがほんのちょっぴり染まっている。
・・・なんだ、なんだ、なーんだ。
アタラさんってば、俺と連絡がとれなかったことに妬いていただけなんだ。
「・・・アラタさん、大好きっ!!」
「・・・バカっ。道端でじゃれつくな。ほんとお前は犬みたいだなあー・・・。」
カフェを出た途端に、ついつい抱きついてしまった俺を、文句を言いながらも振り払わない。
許されている。
この人に。
「あーっ。もう、俺、幸せっす!」
「目の下にクマ作っといて、おかしなヤツ。」
「だからっすよ。アラタさんのためにがんばってるんだ~。って思ったら、楽しかったっすよ。バイト。」
「・・・やっぱ、バイトだったんだな。」
・・・あ。墓穴。
しがない一般家庭の高校生が自由にできるお金なんてたかがしれている。
全寮制のため、普段はバイトをすることさえままならない。
冬休みの間、何もすることがなければアラタさんの声が聞きたくて受験勉強の邪魔をしそうだったし、合格したら合格したで離れ離れになってしまう寂しさからじっとしていられなかった。
帰省すれば、昼間は地元の友人との付き合いもあるし気も紛れるのだけど、夜になって部屋でひとりきりになるのが辛かった。
別に、無理をしたわけじゃない。
自分のためにしたことだった。
贅沢すぎるディナーで腹を満たした後、並んで夜景を眺めながら海風に吹かれていると三洲がぼそっとつぶやいた。
「お前さ。背伸びしなくても、ちゃんと待ってるから。」
「・・・え?」
アラタさんにはそういうふうに見えていたのだろうか。
背伸びさせている、と気を遣わせていたのだろうか。
ゆらゆらと揺れる視線を感じとったかのように、俺の頭をくしゃりと撫でる。
「・・・バーカ。そういう意味じゃねーよ。」
ふわり。と包み込むように微笑まれ、ここのところ緊張しっぱなしだった糸がぷつりと切れる。
「・・・だって、遠距離恋愛になっちゃうし、医大生だし、住む世界が違うってゆーか。
だからって、おっかけて同じ大学行けるほどの学力も目的もないし・・・。ふらふらしている頼りない存在だな。俺。って思ったら情けなくて、不安で。」
「・・・だから、豪華クルージング?」
「・・・おかしい?」
短絡的だなあ。お前。
先程の不機嫌とはうって変わって、小さく噴出しながら、再び頭をくしゃりと撫でる。
「そうだなあ。お前の白衣姿ってのも見てみたい気もするけど・・・。
お前のその人懐っこい性格は狭い世界に立てこもってるよりも、営業とかのほうが向いてるんじゃないか?」
日向のようなお前に惚れたんだし。
声にはしなかったものの、三洲のやわらかな横顔が語っていた。
「・・・もっと愛されている自信持てよ。」
「・・・えっ?何?よく聞こえなかった。・・・もう一回!」
「そんなに何回も言うかよ。馬鹿。」
「え~。アラタさんの意地悪っ!」
ブルン、と急に震え出したエンジン音と海風に流されて消されてしまったけど、遠くをみつめたままつぶやいたアラタさんの言葉はしっかり俺の胸に届いた。
背伸びしたり、甘えたり、許されたり。
アラタさんが見ている世界からすれば、俺はきっとすごくつまんない存在だろうけど。
「寒いな。入るぞ。」
「えっ?もう??せっかくの夜景なのに~~。」
急に寒がりになって耳たぶをほんのり染めている彼だけを信じることにしよう。
---------------------------------------
急に真行寺×三洲ですWW
・・・はっ。しかもキスさえもなかった・・・・。
やっぱ年下わんこ攻め×クールビューティー年上受け好きだなあ。と思ってW
大まおばっかり描いていたのですが、本来はこういう関係性が好み////
大まおを待っていただいていた方には、久しぶりのお話がタクミクンでごめんなさいっW