「はあっ・・・。」

冷たく凍えた手に、息を吹きかける。
本当は、それぐらいじゃちっとも変わらないんだけど。
生まれたときから付き合っている冷え性だから、トクベツ辛い、とも感じていないんだけど。

ってゆーか。

寒いなら手袋でもカイロでも文明の利器を使えばいいんだけど。

けどけどけど・・・。

なーんて、語尾にいい訳ばかり並べたてながらも、ちらり。と他のメンバーと談笑してい横る先輩の顔を眺める。

「気がついて、くれないかなあ・・・。」

ぼそり。とつぶやいて、もう一度、はあっ!と息を吹きかける。


大好きな先輩がふっとこちらに向けた視線が、ぼくの上でとまる。

ドキン。

テレパシーが通じちゃった。

こっちを向いてほしい、と願っていたら、本当にぼくを見てくれた。


「何?まお、寒いの?」
「・・・うーん。寒いってゆーか、冷え性だから。」

スタッフさんが気を使って、分厚いコートだの、ホットの飲み物だの、用意してくれているから、実際にはそこまで寒いわけではない。

多分、寒がりなぼくを温めてほしい、という、半分は願望。


「かしてみ?」
「・・・・っ!」


凍えているぼくに気がついてほしい。かまってほしい。
ただ、それだけの願望だったのに。

目の前の先輩は、ぼくの両手を包みこんで、はあっと息を吹きかけてきた。


・・・あったかい。


あったかいけど。

それより、何より、血流が悪いはずの血液が、びっくりするような速度で全身をかけめぐる。
半凍結して活動を止めていた細胞が一気に活性化して、全力疾走しているみたいだ。


「あったまった?」
「・・・う、うん。」


手を包み込んだままじっとぼくを見詰める瞳に、期待してしまう。


「でも、ほんとお前冷え性なのなー・・・。
手袋とか持ってねーの?
ほら、これやるよ。皮だし、あったけーよ?」
「・・・え?あ。ありがと・・・。」


高校生のぼくには、確かに皮の手袋なんて気軽に手を出せない。
単純に先輩として、冷え性な可哀想な後輩にプレゼント、ってことななだろうけど。


・・・うれしい、けど。


滑らかな皮の手袋に包まれてじんわりと暖かくなる手先とは裏腹に。

ちょっぴり寂しくなる。


また、みんなの元に返ってしまうのではないか、と。


「今度から、忘れずに持って来いよ?」


でこピンして、またぼくに背を向ける先輩。


大切にする。
忘れるわけないぐらい、特別なプレゼントだから。


・・・だけど。






「・・・あはっ。急いでたから、忘れちゃいました。」

鞄の中にあの手袋は入っているけれど。


やっぱり、ぼくは寒がりなふりをしいて、手に息を吐き掛ける。



「・・・もう、しょーがないなあ。」


ほら。


だって、ぼくの手を包みこんであたためてくれるから。


「冷たいでしょ?」


ふざけるふりで、大好きな貴方の頬に触れてみたりして。


「お前っ!つめてーんだよっ!」


悲鳴をあげて逃げる先輩を追いかけてみたりして。



これぐらいの幸せ、許してくれるよね?



ね?



大ちゃん。




--------------------------------------

はっ!名前がどこにも出てこない!!
って、ことで最後に「大ちゃん」と入れてみました(笑)
・・・まあ、ここにきてくださっている人は、名前なんて入っていなくても大まお変換していただいているでしょうが。

ここのところの冷え込みで、院長の朝の挨拶は
「手-冷たいねん。背中に入れてもいい?」なのです(笑)

最初、「私のほうが冷たいですよ~。」って握り返していたので、
冷え性アピールができないと悟ったらしい(笑)

ま、こんなおばちゃん達の会話はどーでもいいですね。
きっと、高校生時代の大まおなら、こんなふうに胸きゅんな会話をしていたと思います^^