「メリークリスマス!大ちゃん。」
「おはよ。まお。メリークリスマス!」

風呂に入って、テレビのリモコンに手を伸ばしたころに鳴り始めた電話。
一日の終わりの締めくくりに「おはよう。」と言うのも習慣になってきた。
時差ー14時間の遠い大陸にいる恋人の声を聞けるだけで、
「生きててよかった。」
と、大袈裟でなく思うたびに、自分の中でどんなに大きな存在であるかを噛み締める。

「クリスマス、した?大ちゃん。」
「んー・・・。稽古中だからなあ。タッキーたちとケーキ食べたぐらいだよ。
今は風呂はいって、テレビ見ようとしてたとこ。」

「そうなんだあ。意外とフツーだね!」
「そりゃ、一緒にすごせる相手がいないからなあ。」



からからと笑う大ちゃんには、嫌味みたいなものは感じられないけど。
側にいれないことを、多少なりとも申し訳ないな。と思っている俺としては、冗談にしてもちょっぴり苦しい。

みんなで楽しく盛り上がったぞ!と言われても、自分が一人仲間はずれにされたみたいで。
自分なんていなくても、全然さみしくないんだ。なんて落ち込むに違いないだろうけど。
一人寂しくイブを過ごしているなんて聞いたら、とんでいって抱き締めたくなる。

「・・・そうだね。ごめんね?大ちゃん。」
「なんで、そこでお前が謝るんだよ。」
「・・・だって・・・。」

同じ空の下だから、寂しくないさ。と送りだしてくれた大ちゃんだけれど、
やっぱり地球半分の距離はそうそう簡単に行き来できる距離じゃない。

「お前も似たようなものだろうが?」
「・・・まあ、ね。」

みんな家族で過ごすからと共に過ごす友人もなく、一人で課題をやっつけるイブになりそうだ。

「羽根があったらとんでゆくのに。」
「・・・ああ。そんな歌、あったな。」

大ちゃんの鼻歌が耳に優しく届いてくる。
叶わないとわかっているからこそ、苦しい。

「でもさあ。羽根よりも、ドラエモンのどこでもドアだろ?」

歌い終わった大ちゃんが、急におどけた声で言うものだから、
「どこでも、ドア~!」
と、まんまる呑気なキャタクターがぽん!と浮かんできて思わず笑ってしまった。

「も~。大ちゃんはいつでも、どこでも和みキャラだよね!」
「そっか?」

俺の負担を軽くするために、平気なふりをして笑いとばしてくれる大ちゃん。

「そうそう。プレゼント贈っておいたから。
朝、起きたらモミの木の下に~~。ってわけにはいかないけど、気に入ってくれたら嬉しい。」
「わ。ほんと?忙しいのにわざわざありがとね!楽しみにしてる!
・・・でも、こうやって声が聞けるだけで、十分だからね。」

「まあ、そう言わずに。お前のことを考えながら選ぶ時間ってのも楽しいもんだしさ。」

うんと遠く離れたところにいるけど、大ちゃんの優しさが伝わってくる。
耳のすぐ横で、体温さえも感じられるようだ。

「・・・あ。雨が降ってきた・・・。」
「・・・え?こっちも・・・。」
「・・・ほんとだ。」

耳を澄ませると、かすかに窓ガラスをたたく雨の音が聞こえる。
窓ガラスを伝う雫が、遠く離れた恋人のいる空から届けられているようで、
流れてゆく雫を指先で追う。

気温の低いニューヨークではホワイトクリスマスになる確率が高いと楽しみにしていたけど、
今年は暖冬で残念ながら雨になってしまった。

「まおの勝ち、だな。」
「え?何が??」

「雨男。きっと世界中から恨まれてるぞ?イブの日に雨を降らせるなんて。って。」
「え~~?そんなの俺一人のせいじゃないじゃん。」

あんまりな責任転嫁に、ぷくう。と膨れていると。

「元気になったか?まお。今日も一日笑顔で過ごせそうか?」

先程までのからかい口調とは打って変わって、甘く包む混むような声色に変わる。

・・・反則だよ。大ちゃん。

宇宙経由の電波なのに、まるで目の前にいるみたいに全部わかっちゃうなんて。

「・・・サンタさんなんていなくていい。大ちゃんだけいてくれたら。」
「なんだ?それ。欲がないなあ。お前。」

呆れたように笑っているけれど、大ちゃんはきっと自分の凄さに気がついていない。
子供たちが欲しがるプレゼントをお見通しのサンタさんだけど、俺の一番欲しいものは貴方がすべてくれるから。


レイニーメリークリスマス。


おやすみ。大ちゃん。



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なーんにも用意していなかったのですが。
やっぱりイブの日にお話が何もないのは寂しいでしょう!ってことで急遽かきました^^

帰国している設定のほうがいいかなあ?とも思ったのですが。
離れていても、二人は繋がっている。ということで^^

切なくも、幸せ。という感情を届けられたらなあ。と、思います^^