「今度、一緒にごはんでも食べようか。美味しいところ、みつけたんだけど。
・・・空の都合はどう?」

耳に心地よい彼の声にうっとりしていると、ふいうちのように名前を呼ばれて心臓がドクンと跳ねる。

「・・・空?」

ドキドキに咄嗟に返事ができずにいると、いぶかしげにまた名前を呼ばれて一気に耳まで赤くなる。
今まで決してと自分のものにならないと思っていた「空」が、強引にすさまじいスピードで迫ってくる。
光を遮るように幾重にも塗り固めた殻を突き破って、まばゆい光が差してくる。

誰を傷つけることなく。
誰にも傷つけられることもなく。
安全だけれども、寂しかった空間。

居心地がいいのだと言い聞かせてた真っ暗な星空は、実は真っ青な空に憧れていたのだと思い知らされる。

「・・・どうしたの?ぼーっとして。何か、落ち込むことでもあった?」
「いえっ。全然。なんだか、空って呼ばれ方に慣れなくて。」

本当は、単純に名前を呼ばれることに慣れないのではなくて。
彼が発音する「クウ」という響きは、同じ名前であるはずなのに、
キラキラとまぶしくて戸惑うからだ。

大人って、ずるい。

人が必死になってつかんだものを、いとも簡単にすくいあげてしまう。
まぶしさに戸惑いながらよろよろと踏み出したぼくの腕を、強引に引っ張り光の中へと誘う。

何も遠慮することはない。後ろめたく思うことはない。
人間の価値や魅力というものは、マイノリティで打ち消されるものではない。

だって、彼の周りはいつも穏やかな空気が流れていて、優しい笑顔で満ち溢れている。
自分からわざわざカミングアウトしてまわることはないけれど、問われれば自然に答える。
あまりにも当たり前のことのように話するので、「好きな食べ物はケーキよりもせんべいなんです。」と言われているような、錯覚に陥る。

・・・自分の魅力をきちんとわかっていて、尊大にならず、必要以上に自分を貶めることもない。

「ちゃんと、自分の魅力を認めたほうがいいよ。」
と、安心できるけど一人ぼっちな世界に閉じこもっていたぼくに、自由で広い世界を教えてくれた。

「・・・ごはんもいいけど。うちでゆっくりしませんか?
ちょうど有名なお店のスイーツをいただいたんだけど、一人では食べきれなくて困ってたんです。」

ほんの少し期待をこめて誘うと、彼の瞳が困ったように揺らぐ。
友情以上のものは感じるけれど、深入りしたくはない。ということなのだろうか?
それとも、コドモすぎて相手にできない?
差し出したばかりの心を、慌ててひっこめる。

「・・・あ。甘いもの苦手ですか?それとも・・・。」

うちに来るのは、嫌ですか?とは、続ける勇気がなかった。
だって、ぼくに触れるのは嫌ですか?と問うのと同じだったから。



-----------------------------------------

あー。ほんとなかなかすすまないですねえ。
彼。の過去のエピソードを描くことができたら、一気にすすみそうな気もするのですが。

さて~~。

今日は、るろうに剣心の京都編がテレビでありますね!
DVDで見て感動して、購入を迷っているところなのですが。
本日は剣心、明日と明後日は、カナダ大会。と、しばらくテレビっ子になりそうです^^