山のような持ち帰り仕事をドン!とテーブルにつんでビールのプルタブを開ける。
ごくり、と喉を冷たく流れ落ちると、一日の疲れが気泡とともに流されてゆくような気がする。

「ふ~~。疲れたあ!」

だらしなく靴下をソファの下に脱ぎ散らかし、ネクタイを緩めて脚を放り投げる。視界の端に、お持ちかえりの仕事の山が見えるけれど、気がつかなかったふりをして目を閉じる。

学生のときからの悪い癖だ。さっさとやるべきことを片付けてしまえば、心置きなくのんびりできるのがわかっているのに、現在の楽から逃げられない。幸か不幸か、いつもピンチのときには助けてくれる友人だとか、急に予定が変更になったりだとか。世渡り上手、と言ってしまえば長所に聞こえなくもない、「何とかなるさ。」精神で世の中を渡ってきてしまった。

「初日、だぜ・・・。」

こんなことで、この先やっていけるのだろうか。
なんだか、一生分の体力を使い果たしてしまった気がする。

「だいたいさあ。こんな何十人ものデータが頭に一気に入るかっつーの。
SDカードでも頭に埋めこめたら楽なのになあ。」

叶いもしない妄想をくりひろげながら、一向に頭に入ってこないプリントをパラパラとめくっているうちに、意識が遠のいてきた。

・・・やばい。アルコール入れるんじゃ、かなった・・・。

やらなきゃ。と頭では思っているのに、体が重くていうことを聞かない。

朝の職員会議で、何ヒトツ整理できていなくて大恥をかいて、生徒の前でも冷や汗をかきながらしどろもどろになっている夢を見ているところに、携帯の賑やかな音に眠りを中断された。

「助かった!」

うなされるばかりで全く疲れのとれない眠りから覚めて、ほっとする。

「誰だか知らないけど、今日ばかりは感謝するよ~~。」

ちゅ。と携帯にキスをして画面を開くと、「タカミユウリ先生」の文字が。

「げっ・・・。」

<もう終った?さぼってて、恥かくのは自分だけじゃないんだぞ。俺の顔を潰すなよ>

家に帰ってまで、彼の名前を見ることになろうとは。
意地悪そうな上から目線で見下ろしてくるのが、目に浮かぶ。
・・・目力半端ないから、あの視線で見おろされると居心地悪いことこの上ない。

好き好んで連絡先を交換したわけではない。業務連絡用として、校長をはじめ、職員全員のデータをインプットするのも本日のお仕事だったのだ。

「くっそーっ!明日こそは文句言わせないからなっ!!」

だから、かわいい後輩をもうちょっと労われっつーのっ!!

ぶちぶちと文句を言いながらも、怒りエネルギーで一気にアドレナリンが放出されて、だらだらとページをめくるばかりだった書類の山が一気に整理されていった。