美貌の撮影が始まる。

タクミの元へ駆けつけたいのに、それを押さえ込み、見えないふりをする苦しさも。
守りたいからこそ、遠ざけようとする優しさも。

・・・でも、本当は、それはお互いに苦しいだけだということも。

今なら、すべての感情が共感できる。

伸ばしたくて、伸ばせなかった指先。
触れれば、壊してしまいそうで怖かった指先。

独りで悩んで、苦しんだ、涙が伝うタクミの頬にそっと触れる。

お願いだから、心を閉ざさないで。
お前の強さを信じるから、側にいて。

触れた瞬間に拒絶されそうになった身体をぎゅっと抱き締める。
・・・俺が、悪かった。
もう、逃げないから。ちゃんと、受止めるから。
孤独だったよな?苦しかったよな?
お前の肩にすべてを乗せて、逃げていた。

・・・ギイの荷物わけてくれよ。

本当は、自分一人で背負い込んで、お前を巻き込まないほうが楽だった。
分ける、ということは、二人分の人生を背負い込むことになるのだから。

それでも。

お前を手放したくなかった。


まおの瞳に俺の姿が映りこんでいるのを確認しながら、ゆっくりとシャツのボタンを外してゆく。
まおの心を、ゆっくりと開いてゆくように。
俺にゆだねてくれた心をついばむように、胸に口づける。

遠慮がちに回されていた手に、「いいの?」というように、力が入る。
「当たり前だろ?」と答えるように、口付けを深くする。

「あっ。んっ・・・。」

音声が拾えるかどうか、ぐらいに漏れでる吐息が愛おしさをかきたてる。

胸に手を這わせると、薄い皮膚の下で息づくまおの鼓動を感じる。
直に触れているじゃないか。ってぐらい、熱く脈打っている。

緊張、してるんだよな?

撮影の緊張というものは、随分とほぐれていることは、先程のやりとりでわかっている。
微かに震えているのは、通じ合った気持ちが嬉しいのだろうか?
まおの潤んだ瞳が俺をしっかりと捉えていることに満足しながら、唇を滑らせてゆく。

「愛してるよ。まお。」

耳元でささやけば、まおのカラダがピクンと跳ねる。

「はっ。あっ・・・。」

快感にずりずりと逃げ惑い、壁に手をついたまおを追いかけ、腕の中に閉じ込める。
引き止めたくて、勇気がなくて、無理やり閉じ込めていた感情を、素直に表す。

「好きだ。」

後ろから抱き締めながら、耳たぶを甘噛みすると、まおの体温が上がる。
密着する肌から伝わる体温差が、じんわりと溶け合ってゆく。
・・・浸透圧の違うものが、混ざり合うように。

「共犯者に、なってくれるか?」

最初原作を読んだときは、こんなに大人びた高校生がいるか?と、自分が学生だったときを思い返して、思った。
ゆんも、まおも、・・・俺も。
相手のことを思うがゆえに、必死に大人になろうとしていただけで。

ギイだって、本当は大人だったわけじゃない。
自分の人生に巻き込んでしまう恐怖と必死に戦う子供だったんだ。

「・・・いいよ。ギイ。共犯者になってあげる。
ずっと、ずっとギイの側にいる。」

まおの声が、甘やかに俺を溶かす。


「・・・まお。」

正直、まだ少し怖い。
自分に運命を貫き通す強さがあるのか。

それでも、突き進もう、と覚悟を決めたのだから。

まおの手を取り、決して離さないでいよう。

独りで背負いきる人生というものは、軽いかもしれない。
でも、二人で背負う人生というものは、重さの分だけ強さがある。


甘い考えかもしれないけれど。
「タクミクン」という世界観を通して、感じたこと。

俺達の関係が、受け入れらているということ。
一部の人間かもしれないけど、味方がいる。ということ。


俺が、まおの気持ちを受け入れたように・・・。


本物の強い気持ちは、いつか受け入れられ、祝福されるかも、しれない。


「側にいろよ。まお。」


俺を必要としてくれる、存在。

何よりも、愛おしい存在。


ここからすべてが始まる。




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お付き合いくださり、ありがとうございました!!!

なんだか、最後は駆け足のようになってしまいましたが。
これで、「月と檸檬」は、終了です^^

私は描きながらどんどんイメージを膨らましてゆくタイプなので、ゆんサイドとか、最初に描いた部分は、ペラペラしているのですが。

それぞれ独立していても読めますが、読み比べていただけると、より「ああ!」って思っていただけると思うので、別館へのリンクを貼り付けておきますね^^


 月と檸檬


ご感想いただけると、嬉しいです^^