ラベンダー色に空が染まってゆく。
純粋に美しい、と思える見事な夕焼けだったけれど。

まおとの時間が残り少なくなってゆくのを、まざまざと見せ付けられている気がして、空ごと引き摺り下ろしてやりたくなった。

「わーってるよ。」

わざわざ教えてもらわなくても。
共演前にちょっと親睦を深めたかっただけ、の幻のようなデートなんだ。ってことは。

華奢な外見には似合わず、豪快な食べっぷりのまおが今日はなんだかしおらしい。

「・・・どした?」
「・・・ん。猫舌だから。」

ぼんやり、と箸を止めていたかと思えば、慌てたように急にふぅふぅと息を吹きかけたりする。

まおの前ではできるだけ吸わないように、我慢していたけれど、自分の意思とは無関係に流れてゆく時間にイライラして、タバコを取りだす。
「いい?」と視線だけで問うと、微かにうなづく。
撮影中は、喉にも健康にも悪いよっ!と、注意されたのに、おかしいのは俺だけじゃ、ない。

何度も口を開きかけては閉じていたまおが、意を決したように俺を見詰める。

「あの・・。あのね。」
「・・・ん?」

まおの様子がおかしいのは、何か相談ごとがあるからだ。
進路のことだろうか?演技のことだろうか??
・・・それとも、恋人ができた。なんて報告だったらどうしよう・・・。

落ち着け。
ざわつく心をなだめるように、ふうっと煙を吐き出す。

「あの。テニミュを卒業してから、大ちゃんのことばっかり考えてた。寂しかった。
・・・あ、でもこれは他のメンバーには感じる寂しいとは、ちょっと違うくて。」

何を言っているんだ?コイツは。
俺の感じていたことを鏡のように写し、暴露されたようだ。

「えっと、好き・・・なんだと思う・・・。」

消え入りそうな声で、うつむくまおがいっそ憎らしいぐらいだった。
まだ、彼女ができたんだよ~。なんて明るく報告されたほうが、どんなに楽だったか。

「・・・あのさ。まお。」

キスも知らない純粋無垢なまおが、勘違いしてしまっていることは容易に想像できた。
しかも、続編が出る。ともなると、運命めいたものを感じてしまったのだろう。
大して好きでもなかったのに、手を繋げばドキドキしたり、キスをすれば盛り上がってしまった感情を、俺は知っている。

「まおぐらいの年齢のときってさ。恋に恋するっつーか。
多分、恋人役なんて演じてしまったから、勘違いしているだけだよ。」

勘違いに身をゆだねるのも、いいかもしれない。
ただ単なる同級生だとかの関係ならば。

だけど、俺とまおは違う。
未成年で恋の何たるか、もわかっていないやつに。
外れまくった道へと手を引いて誘い込むようなことをしてはいけない。

くしゃくしゃと子供にするように頭を撫でると、まおが泣きそうな顔になる。

・・・失恋したとでも、思っているのだろうか?
まおの泣き顔を見るのは辛いけれど、これでいい。
受止めてしまえば、後戻りできなくなる。

「・・・信じてくれないの?」
「信じるとか、信じないじゃなくて、思い込んでるだけってゆーか。あんまり簡単に、好きだとか決めないほうがいいぞ?」

俺のことを信頼し、心の全てを晒して預けてくるまおが、怖い。
俺はそんなに完璧な人間じゃ、ないのに。

「・・・な?」

お前は、俺が世界の全てだと思いすぎた。
たまたまこの業界の入り口に立っていたのが俺だった、というだけで、自分の未来を決めてしまってはいけない。

「どうせ、ぼくは子供だよっ!」

まおがイスを激しく蹴り上げて、店を出てゆく。

「まっ・・・。」

自分で決めたことなのに、思わず呼びとめそうになって腰を浮かす。

「・・・どうしてこうなるんだよ・・・。」

戻りたい。

あのころに。

まおと明るくじゃれあって、みんなの輪の中にいたあの頃に・・・。

「恋人同士」であることを、笑いながら語れたあの頃に・・・。