夏のうだるような暑さに、考えることが億劫になる。
毎日のスケジュールをこなして、夜になればぐったりと眠るだけの日々が続く。

外出と言えば、体力を落としてはいけない。とジムに通うか。
夏季休暇を利用して上京してきた地元の友人と、たまに飲みに出かけるぐらいだった。

まおのことは陽炎のように、ゆらゆらと曖昧なものになっていった。

どんなに熱烈に思っていたとしても、時間がたてば少しずつ感情というものは薄れてくる。

そうでなければ、生きていけない。
・・・薄れるように、努力しているのだから。
成功しなくては、意味がない。


ほら。

俺の感情なんて関係なしに、季節は巡る。

自分の感情をうまく誤魔化せている。と思っていたのに。

窓から入ってくる風が、ひんやりと冷たくなってくると、あの時の感情を思い出さずにはいられない。
頭で考えなくても、五感が覚えている、とでも言うのだろうか。


外での撮影で触れ合った唇は冷たかったな。とか。
緊張に冷え切った手足とは裏腹に、首筋はびっくりするぐらい熱かったな。とか。
撮影の合間に飲んだコーヒーとタバコの混じった香りがする。と言われたことだとか。
まおの香りが男っぽいものではなく、清潔なシャンプーの匂いがしただとか。

あの時は確かに。

俺はまおに恋をしていた。

・・・いや、正確にはタクミに。のはずだけれど。

秋、という季節が悪いんだ。

きっと、この季節が過ぎ去れば、また元の自分に戻れる。


そう、信じていた。