変化があったのは、まおとの共演の映画が決まってからかもしれない。

「二人とも主役級なんて、すごいね!」
綺麗な笑顔で、拳をぶつけてきたゆん。

「おう!ありがとうな。」
一緒に高みを目指そうぜ!という思いを込めてぶつけ返した拳に嘘はなかった。


ゆんが親友であることに変わりはなかったけれど、まおと共演することで、じんわりとまおが俺の心の中に入ってくるのがわかった。

遅れて入った「虹色」の撮影では、まおが心細そうに部屋の隅っこでたたずんでいた。

俺を見つけると「あ・・・。部長。」と、ほっとしたように緊張した表情を緩めたのが印象に残った。
一人で頑張っていたまおがいじらしく、愛らしい。と思った。
自分が全く緊張してなかったわけではないけれど、まおの緊張具合を見ているとほほえましくて、肩の力が抜けた。

「大丈夫か?」
「もう、初めてだらけでわかんないことばっかだよ。・・・でも、頑張んなきゃね。」
と、ゆらゆらと不安げに揺れていたかと思えば、強い輝きを放つ瞳に吸い込まれうになる。

ああ。こういう奴だったよな。

4代目のメンバーとして今は打ち解けて誰とでも気さくに話しているけれど。
最初の頃は自分からみんなの輪に入っていけずに、困っている頼りなさ、みたいなものがあった。
ぶつかり合う個性を成敗しながら、反対に自己主張しなさすぎるまおを引っ張りだしてこなきゃ。と気になっていた。
・・・まあ、俺がその役目を果たさなくても、みんなに構われて可愛がられて、いつの間にやら「4代目の癒し系」などと称されるようになっていたけれど。

菊丸のひたすら明るくて元気!!というわかりやすいキャラクターとは対照的に、うちに籠もるタイプのタクミを演じるのは難しかったと思う。
何度もミステイクを重ねて、悔しさに唇をかんでいる横顔は、まおのまっすぐな心を如実に表していて、がつがつした向上心の塊、という情熱を思い起こさせた。

「どうやったら可愛く見えるかな?」
「声を大にして伝えるのじゃなく、あふれ出るよな好き、ってどんなのだろう?」

うーん。うーん。と悩んだ末に、「こう?」と、答えを確かめるように俺を見詰めてくる。

「かっわいいなあ。」
撮影中に何度そうつぶやいただろう。

まおの幼さの残る愛らしさにメロメロになったのは、俺だけじゃなくて。
タッキーも監督もスタッフさんも口を開けば「まお君かわいい!」と言っていた。

「だよなあ・・・。」

と、心の中で相槌を打つ。
恋という情熱的なものではなく、小動物を愛でる様な愛情に近かったけれど、まおのことを好きだ。という感情は自然に沸いてきた。

改めてお互い心を開くところから始めなくても、テニミュの仲間をいう気心の知れた気軽さがあったし。
まおの性格からしても、俺が相手役だというのも入りやすかったのだと思う。

「最高のものを作ろう!」
「うんっ!」

穢れを知らぬ子供のように、真っ直ぐな瞳で俺についてきてくれる。
頼り切るばかりじゃなく、自分の力で努力しようと必死に悩む。

まおのこの姿勢が好きだ。と思った。

テニミュのメンバーの一人であった時はぼんやりとしか見えていなかった部分が、どんどんクリアになって俺を惹きつけてゆく。