美貌の撮影が始まる。

監督には、一枚皮がはがれたように成長した。と言われて凄く嬉しかったけれど。
多分、それはぜんぶ大ちゃんのおかげだ。

虹色の頃は友情と恋の違いなんて正直わかんなかった。
キスはキスという行為でしかなく、肌を触れ合わせる気持ちというものがなかった。
「見せる」ということを意識しすぎて、「自然に気持ちが入ってないと駄目なんだよ。」と言われても。
自然な気持ち、が理解できなかった。

今ならわかる。

好きだからこそ、敢えて突き放したギイの優しさも。
好きなのに、離れていなくてはいけない苦しさも。
それでもギイを思い続けたタクミの強さも。

・・・そして、何より。

大ちゃんの瞳に、ぼくが映っている。
愛おしい。大切だ。

言葉はなくても、そんなふうに語ってくれる瞳をじっと見詰めていると、じわじわと体中が熱くなる。

「す・きっ・・・・。だいちゃっ・・・。」

大きな手のひらが優しくシャツをはがしてゆくのも。
キスをされながら、力強い腕が背中をささえてくれるのも。

全てが愛されている実感に繋がって、泣きそうに、なる。


そう。そうだよね?
たくさん苦しんだぶん、手に入れたときの歓びは大きいんだよね?

頑張ったもんね?タクミ。


カットがかかっても離れがたくて、ぎゅっと背中に手を回していると、スタッフさんがさりげなくはけてくれる。

「・・・タクミ?」
「・・・ねえ?大ちゃん。この続き、したい。」

恋人を演じてしまった、というのは確かにあるのだろう。

でなければ、多分恋心を自覚したとしても肌を合せるというところまで想像できなかったかもしれない。
ぼくにとっては、想いを伝える、と言うだけで、全エネルギーを使い果たしてしまったのだから。

でも、知ってしまうと欲張りになる。

肌を重ねあわせる心地よさを知ってしまうと、もっと先が知りたくなる。
もっと、もっと愛されたい。身近に感じたい。


「ばーかっ。無理すんな。」

くしゃ。と頭をなでて、大ちゃんが離れてゆく。

明るい「無理すんな。」は、少し寂しくて、でもココロを軽く明るく照らす。

「・・・してないよ。」

相手にされなかったことが少しだけ悔しくて、ぺしっと腕を叩く。

どうせまだまだ子供だから、手なんて出せないとか思ってるんでしょ?
数年後には、色気むんむんになって辛抱たまらんぐらいになってやるんだから。

負けず嫌い根性がひょっこり顔を出して、むくれていると。

こそっと耳元にささやかれた。


「焦らなくても、いづれ全部教えてやるよ。」

「・・・っ!?」

かあっと耳が熱くなるのを感じながら振向くと、悪戯っぽくウインクする大ちゃんと目があった。


「この撮影で終わりじゃ、ないだろ?」


「・・・うんっ!」


終わりじゃない。


この一言があまりにも嬉しくて、はだけたシャツのままガバっと抱きつく。



「・・・浜尾くん?そろそろ、いいかな?」

「あっ!!すみませんっ!!」

監督の声ではっと我に返る。
みんながクスクスと笑っている。

「じゃあ、オールアップですっ!!」
「おつかれ~~。」


やっと通じたギイとタクミの想い。
やっと届いたぼくの気持ち。受け取った大ちゃんの愛情。


きっと、ずっと、忘れない。


この音楽堂の景色を・・・・。





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この一ページ前でも綺麗な終り方だなあ、と思ったのですが。
美貌~と虹色でのまおの心境の変化みたいなものを描きたかったので、付け加えました^^

で、更にやっぱり撮影現場という雰囲気も感じたかったので、監督に突っ込みを入れてもらいました(笑)

美貌~での苦しみからの未来への希望。みたいなものが、この「檸檬」で感じとれるような展開になっていて、まおが実感としてあの演技ができたんだなあ。と思ってもらえるような物語になっていると、嬉しいです^^