自分の気持ちを客観的に見詰めるように努力しながら、数日が過ぎた。

学校からの帰り道、隣のクラスの女子に呼び止めれた。

「浜尾君、今フリーなんでしょ?付き合ってよ。」

ニコリ。と可愛らしく小首をかしげて告白してきた彼女。

抱き締めたくなるような華奢な体。
くるん。と綺麗にカールした睫毛。
ぷくん。としたやわらかそうな唇。

誰が見てもかわいい。と思うような、外見をしていた。

「浜尾君のこと、ずっと好きだったんだよ。」

真っ直ぐに見詰めてくる、熱っぽい瞳。


・・・カンチガイ、なんだろうか・・・。

真面目に、本気でお付き合いしたら、大ちゃんのことなんて、忘れるのだろうか・・・。


「・・・いいよ。」

口が、勝手に動いていた。

「ほんと?やったあ!」

嬉しそうに、彼女がはしゃいでいる。

・・・どうして、こんなにも楽しそうなんだろう。
ベラベラと喋り続ける彼女を、もう一人のぼくが他人事のように見詰めていた。


毎日、一緒に下校して寄り道をする。
毎日、他愛もないことを話す。

大ちゃんと一緒に行ったお店を覗き、同じ映画を見た。

細い身体を抱き締めてみる。
香水のいい匂いがしたけれど、それだけだった。

抱きつかれて、キスもされた。
やわらくて気持ちいい。と思ったけど、虹色で感じたときのようなトキメキはなかった。

彼女にせがまれるままに、色んなところに出かけ、シャメをとったけれど、
大ちゃんのメールのように何度も開くことはなかった。


好きになる。って、行動じゃない。
いくら、恋人を演じたとしても、恋に落ちるわけじゃない。

大ちゃんと演じた何倍もの時間を、彼女と過ごしてみたけれど。
あのドキドキするような、胸を締め付けるような感情は沸いてこない。

一緒に遊んで楽しい。とは思う。
でも、心の奥底をくすぐられるような幸せは感じない。


やっぱり、好き。なんだよ・・・。
大ちゃん。


「・・・ごめんね。一緒にいて、楽しい。楽しいけど、好きとは違う。」

ごめんね。

ぼくは、本当の恋を知ってしまった。


「・・・そっかあ。ダメモトの告白だったしね。
短い間だったけど、いっぱいデートできて楽しかったよ。」

少し寂しそうに。
でも、笑顔で。

バイバイ。と手を振って去ってゆく。

傷つけて、ごめんね。


でも、カンチガイ。がどちらかなのか、わかってしまった・・・。