泣いて、泣いて、泣きじゃくって。
でも、いくら泣いても、何も変わらなくて。

泣いたら、すっきりする。なんてことも絶対なくて。
胸いっぱいに詰め込まれていた綿菓子は、重い鉛の塊を飲み込んだように重くなって。
ぼんやりとしていた切なさは、はっきりとした形を成した絶望になって。

「・・・帰らなきゃ。」

もうすぐ10時になってしまう。

大ちゃんが守り続けてくれた門限。
勝ち得てきた両親からの信頼。

自分の勝手な感情で、大ちゃんが悪者になってしまってはいけない。

抜け殻のようになった頭は、考えることをやめてしまった。
知らなかった。
人間って限界を超えたら、今度は空っぽになるんだ・・・・。


ぼーっと意識の遠いところで事務的に響くアナウンスを聞く。
空っぽになっても、習慣はちゃんと身に染み付いていて、気がつけば自宅のマンションにたどり着いていた。

「・・・ただいま。」

家族と顔を合せないように、うつむいたまま足早にリビングを通り抜ける。

「おかえり~、早かったのね。渡辺君と会うの、久しぶりだったんでしょ?
ちょっとぐらい遅れてもよかったのに。」

明るい母の声が、背中に投げかけられる。

「・・ん。大ちゃんも忙しいから。」
「そっかあ。そうよね。忙しいのは、いいことよね。」

背を向けたまま、ドアを閉め、そのままベッドに突っ伏す。

「・・・勘違い。かあ・・・。」

大ちゃんに言われた言葉や、諭すような優しい表情がぐるぐると頭の中をめぐる。

「頭、痛い・・・。」

全力疾走して、泣きじゃくって。
人生の中で一番じゃないか。ってぐらいいっぱい考えて。

なんだか、一生分の気力を使い果たした気分だった。



「まーおっ。こっちきて、一緒にメシ食おうぜっ!」
「お前、ほんっとにかわいいなあ。」
「まおのいいところは、諦めないで努力するところだよ。」

たくさんの、大ちゃんの笑顔。

嬉しかったことば。

力強かった腕。

頼もしかった背中。


いつの間にか、洋服のまま眠ってしまっていた。