クーラーの効いた映画館から出ると、むっとした熱気に包まれた。

「うっ、外はまだあっちーなぁ。」
「だよね。こんなに残暑厳しいのに、来週から衣替えだよ。」

「そっかあ。まおってまだ現役高校生だもんなあ。タクミのブレザー着るのも、違和感ないよな。」
「え~。大ちゃんだって、似合ってたよ。」

「無理しなくていいよ。」
「してないよ。」

ぷぷっ。と声を合わせて笑う。

「あ。アイス食う?まお。」
「・・・うん。」

道端に美味しそうなジェラード屋さんがあって、何気なく見詰めていると、大ちゃんが声をかけてくれる。

「・・・ほい。」
「ありがとう。」

ぼくの手にジェラードを握らせながら、自分はテイクアウトしたカプチーノのストローをすする。
何も自己主張しなくても、気がついてくれて、くみ上げてくれる。
気配りは完璧な部長と言われたところは、何一つ変わっていない。

・・・・変わらなさすぎて、胸が苦しい。

「あ~あ~。そんなもたもた食ってると、垂れてくるぞ?」
「だって、急いで食べると頭がキーンってなるんだもん。」

「そういう奴に限って、アイス食べたがるんだよなあ。」

言い終わるかいないかで、ぼくの手からジェラードをぱくん。と食べる。

「わっ!」
「ほら。手伝ってやるから。」

ふわり。とコロンの香りが鼻を掠める。
虹色のときに、腕の中で感じた香り・・・・。


さわり。と風が吹いて、首筋に張り付いた髪の毛を巻き上げてゆく。

1年前の、秋。

ぼくは、恋に落ちたんだ。


胸を甘酸っぱいものが占めてゆく。


初恋は実らない。

どこかでそんなセリフを聞いたことがある。

実らないと知っていても、止めることができない。


檸檬のように甘酸っぱい。と言ってしまうには、苦しすぎる。

好き。好きだよぉ・・・。


「・・・まお?」
「・・なんでもない。ちょっと、キーンときた。」

零れ落ちそうになる涙をぐっとこらえて、唇を噛んだ。