「あっつーっ!」

ぼくの心は相変わらず置き去りのまま。
ふと気がつけば、舞台で汗を流している大ちゃんだとか、触れ合った唇の柔らかさだとかを思い出している。

それでも、地球は回る。
季節はうつろう。

・・・少し、背が伸びただろうか?

夏休みらしいしことをしようぜ!
と、友人と盛り上がってやってきたプール。

強すぎるぐらいの日差しを反射して、水面がきらきらと光る。
夏を謳歌する女子が、大胆すぎるぐらいに肌を露出してプールサイドを闊歩する。

足先を水に浸したままゴロンと寝転がると、
宙につながる真っ青な空が広がっている。
ちゃぷちゃぷと気紛れに水音が耳をくすぐる。
つん。とカルキの臭いが鼻をつく。

・・・大好きな夏のはずなのに。
綿菓子が胸にぎゅうぎゅに詰め込まれたように、苦しい。

澄み切った空がもの嘘くさくなるぐらい、ぼくの心は霧がかかったようだ。


「・・・終っちゃうよ。夏。」

自分から誘ってみよう。と、ちょこっとぐらいは思った。
でも、夏休みなんて、大ちゃんには関係ない。

いつだったか、どんな水着で勝負するか!って話題になったときに、
「プールなんて久しく行ってないなあ・・・。ジムのプールなら行くけど。」
って、言っていた。

女の子とわいわいできて、プールサイドでファーストフードを食べる。
それだけで、ぼくたちにとっては最高に楽しい遊びだけれど。
大ちゃんにとっては、付き添いのお父さんみたいな気分になってしまうんだろう。

「あ・・・。気持ち悪い・・・。」

陽炎のように、ゆらゆらと視界がゆれる。
頭がぼーっとする。


目が覚めると、プールサイドの日陰に横になっていた。
友人の顔ぶれが、次々に入れ替わる。

「おっ!浜尾、目え覚めた?
全く、熱中症になるまで焼くなっつーの!」
「そうそう。いくら、足を水に入れてたって、体の水分は奪われるんだぞ?」

「あ。いや。焼いてたわけじゃなくて・・・。」

大ちゃんのことで頭がいっぱいで、どれだけプールサイドでぼーっとしていたのかわかんなかった。

・・・なんて、言えない、よね?


この気持ちを誰かに吐き出してしまえば、少しは楽になるのに。