稽古が終った後、自販機の前で缶コーヒーで乾杯する。
自販機から漏れる光が、ぼうっと大ちゃんの横顔を照らす。

「虹色」を見てからというもの、なんとなく自分の部屋に誘うのはためらわれた。
別にぼくたちの間に何が起こったわけでもないのだけれど。
なんとなく、後ろめたいような気がして。

言葉にしてしまうと、あっと言う間に消えてしまいそうな居心地のよい空気。
大ちゃんとまお君の間に流れる感情が恋でなかったとしても。
親友だと思ってくれている大ちゃんを裏切るような気がしたんだ。

もし、二人が本気で恋に落ちたのだとしたら。
切ない。
でも、同時に今まで秘めていた気持ちが罪でなくなるような気がして。
振向いてはもらえないけれど、自分を認めてあげれる気がして。

まお君を抱く大ちゃんの視線も、手のひらも、戸惑いはなかった。

もしかして。

この独占欲に名前をつけても、壊れてしまわないだろうか・・・。



「・・・超えたの?」

プルトップを空けただけで、全く減っていない茶色い液体がゆらゆらと揺れるのを眺めていると、その深い色合いに沈み込んでしまいそうだ。

「・・・何を?」

大ちゃんの返事に自分が声に出してしまっていたことに気がつく。
まじっとぼくの顔を見ている大ちゃんの視線にぶつかって、うろうろと視線を彷徨わせる。

わざわざぼくの口から、確認させるなんて残酷だ。

「・・・一線。」
「一線??」

唐突に投げかけられた質問にきょとん、としている。
ハードル飛びじゃあるまいし、はっきり言葉にしなくても気がついて欲しい。

「・・・もう、いいよ。」
「何だよ、気になるだろ?」

ごまかすように一気飲みした缶コーヒーを取り上げられて、自販機に背中を押し付けられる。

「お前、なんか変じゃないか?」
「・・・そう?」

じいっとぼくの瞳を見詰めていた大ちゃんが、ハタ、と真顔になったかと思うと笑いだす。

「・・・もしかして、真剣に誤解してる?」
「・・・え??」

「まおと、一線超えたか。とかって、言うつもりじゃないだろーな?」
「・・・。」

くっくっ。と肩を小刻みに揺らしながら、自販機にぼくと並んでドンともたれる。

「あのさあ。見てたらわかると思うけど。まおなんてキスするだけで妊娠しそうだろ?
純情でめっちゃかわいいけど、手をだすとかありえねーから。」
「・・・そう?」

ぼくに見せてくれる顔は、相変わらず保護者な大ちゃんだけれど。
あの画面からは、やっぱり。
トクベツな空気感のようなもの、が感じられたんだ。

「一線超えただろ?」という冗談を、真剣にとってしまうほどに。