「あ~。うまっ。」

ベランダに腰掛け、よその家々の窓から漏れる明かりをタバコをふかしながらぼんやりと眺める。
風呂上りの火照った体を、ひんやりとした風がなでてゆく。

ポトリ、とタバコの灰が落ちるとともに、ぐいっと手に持った缶ビールをあおる。
喉にひんやりと通ってゆく感触が心地よい。

ベランダでビール最高!

と、思わず舌鼓を打ってから、やわらかな気持ちになる。
いつから、ビールがうまい、などと思うようになったのだろう。と。


あの明かりがついている家々でも、こんなふうに温かい時間を過ごしているのだろうか。
と、思いながら夜風に吹かれていると、裾をロールアップした肌色が視界の隅を横切った。

すとん。と隣に座るまおは、やっぱり片手にビールを持っている。
同じように窓から漏れる明かりを見詰る横顔は、何度見ても綺麗だ。

ぷしゅ。とプルタブが小気味いい音を立てて開く。
ゴクリ。とまおが喉を美味しそうに鳴らして、ころん。と頭をあずけてきた。

「なんか、いいね。こういうの。」
「・・・そうだな。」

多くを語らなくても、なんとなくわかるこの空気感が好きだ。


同じ景色を眺めながら、並んでビールを飲む。

高級なリゾート地も、豪華なディナーも、美しい夜景もないけれど。

当たり前に流れる日常の中で、生活臭の染み付いた何の変哲もない景色を眺め。
そして、当たり前のようにまおが隣にいる。


そんなささやかな幸せというものが、喉から手が出るほど欲しい。と切に思った。
まおが留学してみて、どんなに贅沢なことだったのかとわかった。


だから、今は。


まおが開けるプルタブの音を聞くだけで、気持ちがスカッと元気になる。


「大ちゃんもすっかりビールいけるようになったねえ。」
「そりゃ、一人でウーロン茶は寂しいだろ?」

せっかくまおと一緒にいるのだ。
雰囲気だけでも、ともに楽しみたい。

「でも、先に寝ちゃわないでよ?」
「ああ。一本だけにしとくよ。」

まおに付き合って、少しは呑めるようになったけれど、
基本的にアルコールに弱い俺は量が増えると寝てしまうことが多い。

まおに合せて色んなことを微調整する。

一人で自由気ままな人生も気楽でいいものなのだろう。
結婚したら窮屈になる、と友人にもよく聞かされる。


でも、俺にとってはこんな微調整をすることさえもが、幸せ。なんだ。


・・・なあ?まお。


隣を見ると、なあに?と首を傾げてくる。
そのままじっと見詰めていると、「乾杯。」と何に乾杯しているのやら知らないけれど、
半分ほどに減ってしまった缶をカツン。と合せてきた。


ほら。また幸せの音がする。



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アルコールと名のつくものは、全て苦手な私ですがWWW
今日風呂上がりに窓を開けると、すんごく気持ちがよくて、こういう時にビールを飲んだらきっと「うまっ!」
って思うんだろうなあ。と思いました(笑)

・・・そう思いながら、レモンアイスを食べました(笑)

ビジュアル的に、片手にタバコ。片手にビール。な大ちゃんが浮かんだので、
禁煙している設定のうちの大ちゃんですが、タバコを吸ってもらいました(笑)