「留学、したいんだ・・・。」

悩んで、悩んで、でもこれしかない。と思って出した答え。
誰がなんと言おうと、他の選択肢なんてないのに、声が震えていた。

怖い。

顔を上げることができずに、大ちゃんの筋張った手の甲をじっと見詰める。
とてつもなく長く感じる沈黙。
すぐそばにいるのに、今まで何でもわかりあってきたつもりなのに。

大ちゃんの感情が読めない。

「・・・・わかった。」

告げられた言葉は、たったこれだけ。

「・・・それだけっ!?」

自分のわがままなのに、つい非難するように顔を上げた。

寂しそうで、今にも泣き出しそうな。
なのに、
どこかほっとして、諦めたかのような。
俺の自分勝手な意思を含む視線を、ふあん、と受止めるように目を細める。

「他に、何も言いようがないだろ?
俺が何を言っても、まおの意思はもう決まってるだろうし。
それとも、引き止めて困らせてほしかった?」
「・・・ごめっ・・・。」

甘えるにもほどが過ぎている。

自分勝手に振り回して、決意が揺らぐことなんてないのに、引き止めてほしい。
なんて。

物分りがよすぎる恋人の優しさが、嬉しくて、残酷で、
ぽたぽたとフローリングに涙が落ちる。

「いいさ。もう、随分前から悩んでただろ?
やっと、俺に相談してくれる気になって、嬉しいよ。」

頭をくしゃくしゃと撫でてくれる掌が優しすぎて、また泣けてくる。

「大っちゃっ・・・。」
「待ってるから。安心して、自信もって行って来い。」

どうして、そんなことを言うのだろう。

甘えるにもほどがあるけど。
甘やかすにも程があるよ・・・。

「・・・待ってなくていいから。俺のわがままなんだし。
大ちゃんの時間を無駄にしないで。
それに、自分のことでいっぱいいっぱいで、
離れている間ちゃんと大ちゃんのこと思い続けてる自信ない。」

行ってみなくては、わからない。
わからないけれど、期待させて待たせておくのは残酷だ。

大ちゃんの一挙一動に心が揺さぶられ、心臓が張り裂そうだった片思いを経験しているから。

「・・・いいよ。まおが忘れても、俺はずっと覚えてるから。
いつまでもまおの憧れでありつづけるのが、俺の存在意義だった。」

過去形で言うの?
自分から切り出した別れだというのに、胸が締め付けられる。

「さよなら。また、会う日まで。」

トン。と押された背中が痛い。

・・・マタ、アウヒマデ。

俺のために優しく突き放してくれながら、逃げ場所を用意してくれる。
いつでも、ここに帰ってきていいんだよ。
と。

「・・・うん。さよなら。」

これ以上、この優しい恋人を傷つけないように。
絶対に、一人前になって帰ってこよう。

笑顔で。




「無駄だなんて、言ってくれるなよ。」

閉じられたドアの向こうでつぶやかれた独り言は、俺には届かなかった。



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暗いね~~WW
昔、友人の彼氏さんが海外留学することになって、「待ってて。」なんて言えないし。
って、友人は待つ気満々だったのですが、別れたことを思い出しました。

何を優先すべきか。
若かった当時は、「今の自分に満足できないなんて、彼氏、ばっかじゃないの!?」
と、友人を慰めたものですが(笑)
彼氏もとっても仲の良い友人だったんだけどね。

今なら、自分の意思を貫くことを応援するなあ・・・。
待つとか、待たないとかじゃなくて。
愛は当然あるべきものとして、ベースにあるべきもので。
それを理由に、未来を潰してはいけない。と思います^^