「おおっと!」

風にさらわれてふわり。と舞う桜の花びらを慌てて捕まえる。
指先にやわらかな花びらの感触を連れてくる。

「それにしても、さみーな・・・。」

桜の花も散ろうとしているのに。
雪と桜吹雪が入り混じって、バイオリズムが混乱する。

「春一番じゃ、ないよな?」

季節はずれに冷たく吹き付ける風に、スプリングコートの襟を合せた。


寒さにみんなが足早に駅に向かう。
俺は、地面にしゃがみこんで散ってしまった桜の花びらを拾う。

どうしてこんなことをしているか。と言うと。


昨日この桜の枝を一本拝借して、リビングの花瓶に生けた。

桜言葉を調べて、まおにぴったりだ。と、思うと、
雨でぴっしょりと地面に張り付き。
難を逃れた花びらたちも、寒風に吹かれ困惑している。

そんなふうにしか、思えなくて。
悪天候の中、じっと耐えている桜の花が不憫で、不憫で・・・。


「わーいっ!大ちゃんっ!!ピンクのじゅうたんだよ~~。」
「おっ!綺麗だよなっ!」

まおと一緒になり、
この花びらの絨毯の上をはしゃぎまわって踏みつけていたなんて、信じられない。


「まお~~。こんな姿になっちゃって。」


丁寧に拾い上げた花びらをハンカチに包む。


ふっと後ろを人影が通り過ぎる気配がして、慌ててハンカチをポケットに押し込む。


ややや。
決して怪しい人ってわけじゃあ・・。

あのですね。
花びらをコレクションしてて・・・。そうっ!風呂に浮かべて入るんです!
いやいや、男の一人暮らしでそっちのほうがおかしいでしょう?
それでは、まるでそっちの趣味があるみたい。

俺は、断じて男であって。
あり?
でも、まおのことが好きなんだよな??
いやはや。男として、男が好き・・・
いやいや、男が好きってわけじゃあ・・・。

一人でぐるぐると花びらを拾っていたいい訳を考えているうちに、
気がつけば周囲には誰もいなくなっていた。


「・・・ま、そんなもんだよな。」

通りすぎる人は、桜がよっぽど好きなんだね。
ぐらいにしか思わないものなのだろう。


稽古場の休憩時間。
トイレに入ってハンカチを取り出そうとした瞬間に、ばっ!と花びらが床一面に舞う。

「やっべー。忘れてたW」

稽古に夢中になっていたがために。
あああ。こんなトイレの冷たくて硬い床にぶちまけてしまってごめんよお。

「ごめんなっ!まおっ。」


「・・・え?まお君いるの?帰ってきてるの??」

きょとん。とした声が背後からかぶさる。


ギクリ。

どうして、こういう場に居合わせるかなあ??


「あー。いやいや。そんなこと、言ったかな?空耳、そらみみ。」
「・・・そう?」

焦って否定する俺の言葉を完全には信じていない顔で、
床に散らばった花びらを拾ってくれようとする。

「ああっ!気持ちはありがたい。ありがたいけど、自分でするから。」


だって、これは純潔可憐なまおちゃんなのだ。

散ってしまった花びらとは言えど、他の輩に触れさせるわけにはいかない。


「ん~~。まおちゃん。肌触りも、ふわふわで気持ちいい。」

拾い上げた桜の花びらの柔らかな感触にふたたびうっとりしていると、また背後から声がかぶさる。

「今、大ちゃんまおの肌触りがどーとか言ってなかった??」
「いやっ!言ってない。言ってない。そういえば、昨日おろした羽根布団の感触が最高だったなあ。って、独り言。」

「・・・この季節に羽根布団おろしたの?」

ギクリ。
いちいち、鋭いやつめ。

「んー?んん~っ??あっ!ほらっ。昨日は急に寒くなったじゃん?それで・・。」
「・・・ああ。」

納得。と言ったように去ってゆく背中をほっと見詰める。



扉を隔てた向こうで。


「大ちゃんってば、まお君不足でとうとう変な幻覚が見えるようになったらしいよ??」

と、噂されていることなんて、露ほども知らない。




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グダグダと思いつくままに描いてみました~~(笑)