「あのっ。あのねっ!」

「じゃあ、またな。」と一歩を踏み出そうとして、前につんのめった。
振向くと、まおが真っ赤になりながら俺のジャケットのすそをつかんでいる。

「・・どした?」

反応から薄々用件を気がついてしまった俺は、怯えさせないようにゆっくりと言葉を切る。

「えっと、うんと・・。あのね。明日っ・・。明日で撮影終っちゃうでしょ?」
「そうだな。」

「そしたら、会えなくなっちゃうからっ・・・。」

あーあー。そんなに弄り倒したら、せっかくのお気に入りのジャケットがしわくちゃじゃんか。
って思うぐらいまおが俺のジャケットをしきりにひねり回している。

「会いたくなったら、連絡くれればいいじゃん。メルアド教えたよな?」
「・・・えっ?あっ。うん。」

テニミュで共演したときに、みんなで交換しあったはずだ。
個人的に使うことは皆無に近かったけれど。

話す事がなくなってしまった。とばかりに沈黙しているのに、まおの手は俺のジャケットを離さない。

「あの・・・あのね?」
「・・・うん?」

振り出しに戻る。だ。
まおの綺麗に切りそろえられた爪先を見ながら、じっと辛抱強く待つ。

「なんか、恥ずかしかったよね。」
「そうだな。最初はな。」

「おれも、最初はすっごい恥ずかしかったんだけど、大ちゃんだったから慣れてきて・・・。」
「それって、光栄なのか、男として意識されてないのか?どっちだ?」

「あっ!もちろん、安心したって意味でだよ?」

はっとしたようにまおが顔をあげる。

「・・・だろうな。お前は不器用なとこあるからなあ。」

ふふっと笑って頭をなでてやると、またふたたびジャケットのすそをいじくりだす。
あーあぁ。繊維が擦り切れて、いい加減穴開いちゃうぞ。

「あのっ。あのね。」
「・・・うん?」

はい。。振り出しに戻る。二回目~~。
っつーか、このすごろくちゃんと上がり、があるんだろうな??

少しばかり不安になりかけたころに、まおが唐突にゴールへと突っ走った。

「あのねっ!大ちゃんのこと、好きになちゃった、みたいで。」
「うん。知ってる。」

まるで雑巾でも絞るみたいにむぎゅぎゅぎゅっ!とジャケットを握り締めるまおの手が震えている。
かっわいいなあ。
こんな告白されたの、中学生ぶりじゃないだろうか?

「あのっ。こんなこと言われても困ると思うんだけど、隠してるほうが挙動不審で余計に不自然になっちゃったら嫌だなあ。ってゆーかっ!・・・ってえええっ!?どーして、知ってるの?」

一気にそこまでまくしたててから、
ぱっとまおの手がジャケットを離す。
・・・ああ、穴は開いていない。どうやら無事だったようだ。

「お前、反応遅すぎだろーっ。」

あまりにも、あまりに。な反応にケタケタを笑い転げていると、まおがおろおろと居心地悪そうに摑むものを探している。

「・・・ほら。」

腕の中に閉じ込めて、困ったままの手のひらを俺の背中に回してやる。

「隠してたつもりなんだ?あれで?」

あんなにわかりやすく、縋るような瞳を向けていたのに?

「えーっ。なになに?まお君の告白?やっと言えたんだ。」
「よかったね~。大ちゃん。ちゃんとゴールがあって。」

いつの間に集まってきたのか、のんびりとしたキャストの仲間たちの声が聞こえてくる。

「えっ。ちょ。なんでみんな知ってるの?」

未だに誰にも秘密。と思っていたらしいまおは、俺の胸に顔を半分隠しながら焦りまくっている。

「わかるでしょう。フツウ。」
「・・・ねえ?あれだけスキスキオーラ発しといてねえ?」

「あー。これで平和になるね。気がつかないふり演技しなくてもいいんだもんねえ。」
「うんうん。明日っからは、心置きなく冷やかしまくれる。・・って明日で終わりじゃん。撮影。
つまんないのーっ!」


勝手に盛り上がっている外野に一発叫んだ。

「まおはお前らのおもちゃじゃねーぞっ!」


よれよれになってしまったジャケットと引き換えにやっと手に入れた告白なんだから。

誰にもおすそ分けしてやんねー。



-----------------------------

もうひとパターンの告白^^

どちらがお好みでしたか?(笑)