愛された後の甘い余韻に浸っていると、隣にいた外川さんがむくっと体を起こした。

気だるげに前髪をかきあげながら、煙草に火をつける。
外川さんの吐き出した煙が、ゆったりと天井に消えてゆくのをぼんやりと眺める。

正直煙草の匂いなんて得意じゃなかったのに、今ではすっかり安心する匂い、になってしまってるから不思議だ。

熱っぽく荒い息とともに抱き締められた記憶が、マイルドセブンの香りに混じって浮かんでくる。

あの指が、あのくちびるが。
あの胸が、あの腕が。

さっきまでぼくを抱き締めていた。

恋って不思議だ。と思う。
酒にだらしなくて、煙草をやめれなくて。
でろでろに甘やかしてくれるわけでもないのに。

どうして、惹かれてしまうんだろう。

「嶋?」

と、頭をなでて、顔をのぞきこまれるだけで、どうして胸が高鳴るのだろう。

外川さんが起き上がった分だけ隙間風の入るようになったシーツを引っ張り上げて、
ぼんやりとそんなことを思う。

「なーに?嶋ちゃん。俺の横顔に惚れてた?」
「・・・なわけ、ないです。」

休日の夜。
無精ひげを生やした貴方なんか。と、心の中で毒づいてみるけれど、
だらしないところも色気があるなあ。などと思ってしまっていた。

新しい煙草を箱から取り出して口にくわえた外川さんが、思い出したようにベッドサイドの引き出しを探る。

「ほら。やるよ。」
「・・・なんですか?これ。」

外川さんの外見とキャラには似ても似つかないきらびやかな包装紙と真っ赤なリボンに包まれた箱。

「やるっつったら、やるんだよ。」
「なんかしかけでもあるんですか?」

箱を開けたら、実は明日までに仕上げないといけない書類がどっさり!とか。

「島。今日は徹夜だかんな。付き合えよ。」
とか、脅されるのかもしれない。

・・・ま、それもいいけどね。

すっかり外川さん不在の職場にも慣れたけれど、やっぱり顔をあげれば彼の存在がある。
と、いうのは、疲れたときにほっと安心できる場所であり、心が一気にふあん。と宙に浮いたように
落ちつかなくなる瞬間でもあった。

今でも、外川さんの残していってくれた、あったかい職場の雰囲気はそのままなんだけどね。
京都での仕事の話を聞いていると、ときどきふっと寂しくなるのも事実だ。

あ。今は他の部下がいて、「嶋?」と、笑いかけてくれたように、
他の誰かと一緒にひとつの目標に向かって頑張っているんだ。と思うと、
自分の意思とは違う頭の片隅で、脳ミソがよじれるような気がする。

手の中に押し込められた小さな箱を呆然と眺めていると、

「返却不可だからな。」

と、煙草に火をつけた外川さんがそっぽを向いている。
伸びすぎた髪の毛に隠れた耳がほんのりと赤い。

不思議な面映さを感じながら、リボンをほどくと、宝石のように綺麗に並んだチョコが出てきた。

「あ・・・。バレンタイン・・・。」

ぼそり。とつぶやくと、外川さんの耳が更に赤くなった。

「・・・仕方がないから、もらってあげます。」

本当は、抱きついて頬ずりしたくなるぐらい嬉しいのに、素直に感情表現できない自分が憎い。
両手離しで喜んで、また傷ついたりしたら、立ち直れない。
そんなふうに、予防線を張って、ぶっきらぼうになってしまう自分をかわいくない。と思う。

「じゃあ、お礼はもう一回ってことで。」

照れ隠しなのか、目線を合わせないまま抱き締められた。

吸いたての煙草の葉っぱの香り。
ふっ、と神経ごと抱きしめられたように、安心する香り。

「・・・ありがとう、ございます。」

外川さんの香りに包まれて、そっと背中に回した指に力をこめた。


・・・いつか、かわいい。って思ってもらえる自分になれるかな?


素直になれなくて、そっけないところが、めちゃめちゃかわいい。
と、思われているなんて、嶋は知らない。



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ひっさしぶりの「どうふれ」ですWW
あまりにも久しぶりすぎて、設定とか間違ってたらごめんなさいW

どうしても「仕方がないから、もらってあげます。」って一言を言わせたかったの(笑)
大まおだったら、いくらまおがツンデレだと言っても「わあ!大ちゃんありがとーっ!」
になると思うんですよね・・・。

島ちゃんは、その点イメージにぴったり!ってことで。

全然お話かく気分?テンション?じゃなかったのに、なぜだかどうふれ~を書いてしまいました(笑)