ぼくは鳥かごの中のとり。

何不自由ない生活。

快適な空間と、途切れることのない食べ物。

平凡だとか、退屈だとか。

満足だとか、有意義だとか。

そんな言葉の意味も知らないまま毎日が過ぎてゆく。

ある日。

背中に生えた羽根に気がついた。

鏡に映ったぼくは、美しく強く見えた。

ぼくは大空を飛べる可能性がある。

自分で生きてゆく力がある。

何の根拠もなしに、そう信じた。

翼を広げ、憧れの大空げ羽ばたく。

どこまでも続く青空。

澄み渡る空気。

ちっぽけに霞んで見える鳥かご。

無限の可能性を手に入れた。

そう、思っていた。

だけど。

どこまでも続く青空には果てがなく。

途方にくれても、翼を休めるとまり木もない。

どこまで飛んでゆけばいいのか。

何を目標にすればいいのか。

飛べば飛ぶほど自分を見失ってゆく。

ぼくは、一体どこに行きたかったんだろう?

何を見たかったんだろう?

可能性とは、何だったんだろう。

ふと。

ちっぽけで窮屈な鳥かごが恋しくなった。

自由のない鳥かごの中のとり。

ささやかだけど、当たり前にある幸せ。

帰ろう。

あの、優しさに満ちた空間へ。