「ああ。恋にもこんな試薬があればいいのに。」
理科Ⅰの教科書を眺めながらため息をつく。
「なに?こんなの手に入れてどうすんの?浜尾。」
試薬が欲しい。とだけしか聞こえなかった友人が不思議そうに首を傾げる。
「ううん、何でもない。綺麗だな。って思っただけ。」
スイイドでぽとり、と一滴垂らすだけで、ぱっと鮮やかな桃色に変化する様をぼーっと見詰める。
何の変哲もない無色透明の液なのに、PH8以上のアルカリ溶液にいれると鮮やかに変化する。
こんなふうに、大ちゃんの気持ちも目に見えればいいのに。
ぼくの気持ちはとっくにPH8なんて振り切れて真っ赤な桃色になっているというのに。
かわいい後輩。仕事仲間。かまいたくなる弟のような存在。
好意をもってもらっていることはわかるけれど、ふわふわとしたつかみどころのない好意。
ねえ?
大ちゃんのPHはどこにあるの?
少しは色づいてる??
ぽたり。ぽたり。と実験室でフェノールフタレイン液を垂らしながら、ぼんやりと大ちゃんの優しい瞳を思い浮べる。
試験管越しに見える景色が、かつての撮影現場だったいいのに。
本当にこうやって一緒に肩を並べて実験とかできたらいいのに。
ぼくたちの着ている制服が、あのスカイブルーの制服だったらいいのに。
何してるの?
誰と過ごしているの?
もう起きた?
それとも、今寝たところ??
他の誰かと他のお仕事で笑いあっているの??
ノートにまとめるはずのシャープペンが、ぐるぐると意味を成さない模様を描く。
「ほら。浜尾。早くまとめないと、片付けられねーぞ?」
「・・・・うん。」
シャープペンの先をこめかみに当てて、考える。
チクリ。とした痛みは、ぼくの心の声そのもの。
「見えないものが見える。ってとても興味深いと思いました。
この性質を生かして、様々な溶液の特質を調べてみたいと思います。」
「・・・よしっ。」
実験の感想をノートに書き込んで、窓の外に目をやった。
湿った空気に、セミの鳴き声がうるさい。
触れてほしい。
半袖から覗く腕が心細くて、ゴシゴシと手のひらで擦った。
ねえ。
少しはぼくも貴方を桃色に染めることができるかな?
*
高校生時代の荷物を整理していると、懐かしいノートがでてきた。
淡い桃色から濃い桃色へと変化してゆくずらりと並んだ試験管。
ツン。と鼻をつく薬品の匂い。
窓から見た真っ青な青空。
僅かな胸の奥の甘酸っぱい痛み。
ちらり。と姿が見れただけでときめいて、頬のほてりが止まらなかった。
「・・・成長したよね。」
幸せそうな寝息をたてて、ベットの上ですうすうと寝ている大ちゃんを振り返る。
ぱあっ!と鮮やかな桃色に変化するかのように恋に落ちたあの日。
ぼくばかり想いが募って、確かめる術もないまま空を見上げたあの日。
*
「・・・どした?まお。」
じーっと寝顔を見詰めていると、寝返りを打った大ちゃんの眠そうな瞳と視線があった。
「・・・ふふっ。ちょっと懐かしいもの見つけちゃって。」
「どれ?」
上半身を起こした大ちゃんが、後ろからぼくの手元をのぞきこむ。
「おっ、まお真面目に勉強してたんだなあ。」
「当たり前でしょ~。」
パラパラとページをめくる指先が、あの日の実験のページで止まる。
「あ。懐かしいなあ。フェノールフタレイン。」
「この頃は、ぼくなんてまだまだこどもの高校生だったんだよね。」
「そりゃお前。18歳以下に手え出したら犯罪だろうが。色々我慢してたんだよ。あれでも。」
「そうなの?」
「人の気も知らねーで、ベタベタしてきやがって。我ながら自分の理性の強さを褒めてやりたいね。
舞台挨拶で勃ったどうすんだっ!って話だよ。」
「・・・ぶっ。」
露骨な表現に思わず頬に熱が集まる。
「そんなふうに思ってたの?」
「そりゃもう。ムラムラ今にも襲いそうな気持ちを隠して、平然と人畜無害なおにーちゃん演じてたからな。俳優魂ここにあり、だろ?」
「大ちゃん。すごーい・・・。」
「や。そこ、尊敬するとこと違うから。テイソーの危機だったんだぞ?わかってるか?」
「うん。いいよ。手え出して。」
「・・・なんか、お前成長したなあ・・・。」
「お互い様にね。」
腕を伸ばすと、ふふっと笑った大ちゃんに強く抱き寄せられた。
重なり合う唇の熱さに、あの日のセミの鳴き声が聞こえた気がした。
------------------------------------------
なんか急にBTB溶液。で色が変わって~。ってシュチュが思い浮かんだのだけれど。
ネットで調べたら、私の思っている反応と違うかったW
よく、フェノールフタレインが思い出せたなあ、と我ながら感心(笑)
授業を真面目に聞かず、扉の写真ばかり眺めていたわたし。
理科Ⅰの教科書を眺めながらため息をつく。
「なに?こんなの手に入れてどうすんの?浜尾。」
試薬が欲しい。とだけしか聞こえなかった友人が不思議そうに首を傾げる。
「ううん、何でもない。綺麗だな。って思っただけ。」
スイイドでぽとり、と一滴垂らすだけで、ぱっと鮮やかな桃色に変化する様をぼーっと見詰める。
何の変哲もない無色透明の液なのに、PH8以上のアルカリ溶液にいれると鮮やかに変化する。
こんなふうに、大ちゃんの気持ちも目に見えればいいのに。
ぼくの気持ちはとっくにPH8なんて振り切れて真っ赤な桃色になっているというのに。
かわいい後輩。仕事仲間。かまいたくなる弟のような存在。
好意をもってもらっていることはわかるけれど、ふわふわとしたつかみどころのない好意。
ねえ?
大ちゃんのPHはどこにあるの?
少しは色づいてる??
ぽたり。ぽたり。と実験室でフェノールフタレイン液を垂らしながら、ぼんやりと大ちゃんの優しい瞳を思い浮べる。
試験管越しに見える景色が、かつての撮影現場だったいいのに。
本当にこうやって一緒に肩を並べて実験とかできたらいいのに。
ぼくたちの着ている制服が、あのスカイブルーの制服だったらいいのに。
何してるの?
誰と過ごしているの?
もう起きた?
それとも、今寝たところ??
他の誰かと他のお仕事で笑いあっているの??
ノートにまとめるはずのシャープペンが、ぐるぐると意味を成さない模様を描く。
「ほら。浜尾。早くまとめないと、片付けられねーぞ?」
「・・・・うん。」
シャープペンの先をこめかみに当てて、考える。
チクリ。とした痛みは、ぼくの心の声そのもの。
「見えないものが見える。ってとても興味深いと思いました。
この性質を生かして、様々な溶液の特質を調べてみたいと思います。」
「・・・よしっ。」
実験の感想をノートに書き込んで、窓の外に目をやった。
湿った空気に、セミの鳴き声がうるさい。
触れてほしい。
半袖から覗く腕が心細くて、ゴシゴシと手のひらで擦った。
ねえ。
少しはぼくも貴方を桃色に染めることができるかな?
*
高校生時代の荷物を整理していると、懐かしいノートがでてきた。
淡い桃色から濃い桃色へと変化してゆくずらりと並んだ試験管。
ツン。と鼻をつく薬品の匂い。
窓から見た真っ青な青空。
僅かな胸の奥の甘酸っぱい痛み。
ちらり。と姿が見れただけでときめいて、頬のほてりが止まらなかった。
「・・・成長したよね。」
幸せそうな寝息をたてて、ベットの上ですうすうと寝ている大ちゃんを振り返る。
ぱあっ!と鮮やかな桃色に変化するかのように恋に落ちたあの日。
ぼくばかり想いが募って、確かめる術もないまま空を見上げたあの日。
*
「・・・どした?まお。」
じーっと寝顔を見詰めていると、寝返りを打った大ちゃんの眠そうな瞳と視線があった。
「・・・ふふっ。ちょっと懐かしいもの見つけちゃって。」
「どれ?」
上半身を起こした大ちゃんが、後ろからぼくの手元をのぞきこむ。
「おっ、まお真面目に勉強してたんだなあ。」
「当たり前でしょ~。」
パラパラとページをめくる指先が、あの日の実験のページで止まる。
「あ。懐かしいなあ。フェノールフタレイン。」
「この頃は、ぼくなんてまだまだこどもの高校生だったんだよね。」
「そりゃお前。18歳以下に手え出したら犯罪だろうが。色々我慢してたんだよ。あれでも。」
「そうなの?」
「人の気も知らねーで、ベタベタしてきやがって。我ながら自分の理性の強さを褒めてやりたいね。
舞台挨拶で勃ったどうすんだっ!って話だよ。」
「・・・ぶっ。」
露骨な表現に思わず頬に熱が集まる。
「そんなふうに思ってたの?」
「そりゃもう。ムラムラ今にも襲いそうな気持ちを隠して、平然と人畜無害なおにーちゃん演じてたからな。俳優魂ここにあり、だろ?」
「大ちゃん。すごーい・・・。」
「や。そこ、尊敬するとこと違うから。テイソーの危機だったんだぞ?わかってるか?」
「うん。いいよ。手え出して。」
「・・・なんか、お前成長したなあ・・・。」
「お互い様にね。」
腕を伸ばすと、ふふっと笑った大ちゃんに強く抱き寄せられた。
重なり合う唇の熱さに、あの日のセミの鳴き声が聞こえた気がした。
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なんか急にBTB溶液。で色が変わって~。ってシュチュが思い浮かんだのだけれど。
ネットで調べたら、私の思っている反応と違うかったW
よく、フェノールフタレインが思い出せたなあ、と我ながら感心(笑)
授業を真面目に聞かず、扉の写真ばかり眺めていたわたし。