地元の友人との居場所がみつけられなくなってきたぼくは、大学進学を理由に上京した。
見知らぬ人々、見知らぬ街並み。
普通の人であれば、故郷を懐かしんでホームシックにかかるところなだろうけれど、ぼくはなぜかとても安心した。
誰もぼくのことを知らない。
気をつかって話題を合せることもなければ、相手から深入りされる心配もない。

東京に出れば、きっと同じ性癖の持ち主に出会え、本当の友人というものが作れる。
勝手に、そんな淡い期待を抱いていた。

上京してすぐに、ネットで調べた地図を片手に、いわゆるゲイバーというものを訪れた。

イメージしていたような隠微は雰囲気はなく、普通にお洒落なバーといった様子で、意外にも女性客もちらほらといる。
ただ、店の片隅で男同士でキスをしていたりしても、誰も眉をひそめたりすることなく、自然に受け入れられていた。

「・・・なんか、ほっとするかも。」

正直、ここにたどり着くまでは、緊張していたのだ。
裏情報で、一晩限りの男を漁って出会いを求めるところ。
店によってターゲットは違うが、相手によってはキケンな目にあうことがあるので、慎重に行動すること。
と、注釈があった。
もしかしたら、同じ心もとなさ。と感じている人間と知り合えて、この空虚を埋めあえることができるかも。
恐れもあったけれど、それを上回る興味と期待のほうが大きかった。