「おはよ。まお。」
「う・・・。頭痛い。しんどい。」

眠りから醒めたら、だるそうに瞼を腫らして、赤い目をしたまおがいた。

「大丈夫か?お前、明日向こうに帰るんだろ?12時間もフライト耐えれるのかよ?
っつーか、向こうで医者かかれんのか?こっちより寒いのに。」

「わかんない。」

汗で張り付いた髪の毛を掻き分けて、額に手のひらを当てると焼けるように熱かった。

「熱あるじゃん。」
「・・・あ。やっぱり?」

「やっぱり?じゃねーよっ。しんどかったなら、なんで起こさねーんだよ。」
「だって、大ちゃん稽古あるし・・・。睡眠不足になったら困るし・・・。」

「全く、お前って奴は。気を遣ってんだか、心配させてんだか。」
「・・・ごめんなさい。」

しゅん。とうつろな瞳が落ち込むのを見て、具合の悪いときに責める話でもあるまい。
と、話題を変える。

「水、飲むか?」
「うん。喉イタイ・・・。」

少しは反省したのか、こくん。と小さくうなづき、素直に甘える。
頼もしいまでに強くしなやかで美しいまおも魅力的だが、
こうやって頼りなげに甘えてくる姿は、やっぱりかわいい。

「ほら。」
「ありがと。」

ベッドに寝転んだまま、ペットボトルのまま口をつけたまおが再びぱふん。と突っぷす。

「・・・トイレ、行きたい。」
「それはさすがに代わりには行ってやれんからなあ。頑張って自力で行ってくれ。」

ううう。
と、それでも起き上がるのがしんどい、とばかりに布団の中でぐずぐずしているまおの腕を取って立ち上がらせる。

「ちょ、どこまでついてくるんだよ。大ちゃんのスケベ。」
「スケベはないだろ?せっかく連れてきてやってるのに。」

せっかくの毒舌も、桜色に染めた瞳で睨んでは、誘い文句にしかならない。

「ほら。ドアの外で待っててやるから。」

散々深いところまで知り尽くしているのだから、今更だろう?
とも思うが、まおの乙女心?とかいうやつを尊重してドアにもたれる。
少しでも不穏な物音がすれば、すぐに助け起こしてやれるように、全身に神経を張り巡らせる。

用を足す音が聞こえて、水を流す音が無事聞こえてほっとする。

「医者連れてってやるよ。」
「え?だって稽古は?」

「今日は昼からだよ。」
「そうなの?」


混雑した待合で待っていると、でっかいマスクをしたまおがふらふらと出てきた。

「インフルエンザだって。」
「向こうにいっちまったから、今年は予防注射打ってないもんな。お前。」

「うん・・。こっち雪とか積もってないからちょっと油断したかも。」
「って、ことは・・。」

「うん、飛行機キャンセルしなきゃ。」
「よしっ!俺に任せて、お前は寝てろ。
・・・あ。ちなみに解熱して3日間は周囲に感染するかもしれないから、それまでは帰れねーなっ!」

ぐったり。としているまおにには悪いが、声が心なしかうきうきと弾んでしまう。

速攻で熱が下がったとしても、最低でもあと4日間は共に過ごせるのだ。

許せ、まお。

恋人がインフルエンザにかかっているというのに、喜んでしまう薄情な俺を。

その代わり、うーんと甘やかしてやるからな。

「ほら。」

体の沈みこみすぎるふかふかのソファから立ち上がるために、手を差し伸べる。
そのまま腕を絡ませて支えようとすると、力の入らない手で押し返そうとする。

「・・・いいよ。大ちゃんに移ったら、大変。」
「俺は、予防注射打ってるよ。それに、まおのインフルエンザが俺に感染させようなんてするわけねーだろ?」

「・・・自信家。」
「おかげさまで。」

足元のふらつくまおをがっつり支えながら、ベッタベタに甘やかしてやろう。と決意する。

「何食べたい?アイス買って帰ろうか?それとも、粥とかのほうが食べやすいか?」
「・・・いいよ。かまってくれなくて。昼から稽古でしょ?」

「あっ。せっかく一緒にいる時間が増えたのに、喜んばないんだ。」
「・・・・そういうわけじゃ、ないけど・・・。」

「心配するのも、楽しみの一つなんだからさ。」
「なんだか、おじいちゃんみたいだよ?」

「あははっ!確かに、孫に対してよく聞くセリフかもっ!いいよ。どーせじいちゃんだもん。俺。」
「じゃあ、思いっきり甘えておじいちゃん孝行しなきゃね。」

ふらり、と足元をふらつかせたまおが、俺にもたれかかる。
ぐいっ、と支える腕に力をこめてやると、まおも更に体重をあずけてきた。


病めるときも、健やかなるときも。

支えあえる時間が、一番幸せなんだよ。


いつもより幾分温度の高いぬくもりを受け止められる幸せ。


お前の隣にいて、よかった。


ニューヨークにいるときに、体調壊すなよ。


悪いところは、全部日本に、俺の側に、置いてゆけ。





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うーん。今回も50分近くかかってるW
子供が風呂入っている間にちょこっと、置いてゆくつもりがW