「・・・あ。」

あたりが、ぱっと明るくなり、ほぼ、同時に声を上げた。
感知式点灯のライトが、ついたからだ。

ラベンダーとコバルトブルーが水彩の具を溶かしたようにゆっくりと交じり合う。
キン。と冷たく澄んだ空気が肺を満たしてゆく。
繋いだ手のぬくもりから、じんわりと穏やかな何か、が流れ込んでくる。

「ふふっ。」

大ちゃんが、腕時計に目をやる。
考えていることが同じなんだ。と、顔を見合わせて笑う。

「一日が、長くなったね。」
「そうだな。」

「嬉しい。大好きな青空を眺める時間が増えて。」
「ああ。なんだか得した気分になるよな。」

ぼんやりと、二人で空を眺めているうちに、いつかの記憶がよみがえってきた。



「まーおっ。送るから、待っとけよ。」
「えっ。大丈夫だよ。女の子じゃないし。」

「ばーかっ。お前が大丈夫でも、俺が気にする。
こんな遅い時間まで仕事してたら、両親だって心配するだろ?」
「平気、平気。」

じゃあね。と手を振る。

ドアを開けると、すでに辺りは真っ暗で人影はなかった。
大ちゃんに迷惑は掛けられない。とつい断ってしまったけれど、冷たい空気がツンと、鼻をつく。

「・・・っ心細いんじゃ、ないからねっ!寒いだけっ!」
「平気っ!」と強がりを声に出して、駅に向かっていると、はあはあという荒い息とともに、追いかけてくるような足音が聞こえた。

・・・変質者?

ビクリ。

条件反射で、体が揺れる。

何かある、と思っているわけじゃないけど、
連日放送される殺人やら誘拐やら、のニュースをたまたま先程の休憩時間に耳に入れてしまった。

「まおっ。待ってろ、っつったろ?」
「・・・大ちゃん。」

声が聞こえた瞬間に、安心して膝の力が抜ける。

「お前、そんなに怯えるなら最初から素直に待っとけよなーっ!」
「やっ。だって、大ちゃん反対方向だし・・・」

「それが、馬鹿だって言うんだよ。先輩らしく心配ぐらいさせろっつーのっ!」
「・・・うん・・・。」

マフラーに顔を埋めて、大ちゃんのコートのすそをきゅっとつかんだ。

「ごめんね。ありがとう・・・。」

それから。

撮影が長引くたびに、イケナイ期待に胸が高鳴った。

夜があっと言う間にくればいいのに。

大ちゃんの大好きな青空は、ぼくも大好きな空色だったけれど。
ダークブルーに染まった空にわくわくした。

「遅くなったな。」

真っ暗の空を見上げながら、ぼくのほうを見てくれる大ちゃんの笑顔が好き。

「送ってくよ。」
「じゃあ、急いで帰り支度するねっ!」

弾む息は、支度を急ぐせいだけではない。
染まる頬は、温度差に刺激されただけではない。


空色は、涙色。

いつからそんなふうに感じるようになってしまったのだろう。



「あのね、大ちゃん、片思いしてたとき、空色が嫌いだったって知ってた?」
「・・・はあ?」

突拍子もないことを、言うよな。
と、俺の顔をのぞきこむ。

「今は、大好きだけどね。」

だって、二人で眺める空色だから。

空色から、藍色に移りゆく空を名残惜しげに眺めながら、掠め取るようなキスをした。



「好きだよ。」




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あちゃ。たったこれだけに40分もかかってしまったW
言葉選びがなんだか難しかったの~~。

場面が、現在→過去→現在ってなっているのですが、伝わりましたでしょうか・・・・。