嘘みたいだ。
今、ぼくは彼の腕に抱かれていて、彼の鼓動を感じている。
硝子の向こうの世界だと思っていた存在に、抱き締められている。
見詰めているだけでも美しくて、カッコヨクて、手の届かない憧れの存在だった。
彼の吐息が髪の毛を掠める。
一人ぼっちで凍えていた心が、彼の体温でじんわりと溶かされてゆく。
「京介・・・。」
「ん・・・。あれ?どうして名前・・・。」
名前を呼ばれ、何気なく返事をしてから、気がつく。
「レジ横に、名詞置いてあっただろ?」
「あ。そっか・・・。」
ぼくが思っている以上に、彼はぼくのことを見詰めていてくれたのだ。
触れるだけの掠めるようなキスが何度も落とされる。
ふわり。ふわり。と触れる優しさが、空から舞い降りてくる雪のようだ。
勝手に誤解してこの部屋を飛び出してしまった日は、雪が降るたびに悲しくなっていたのに。
今は、雪が温かく見守っていてくれるようにさえ思える。
「夢みたいだな。硝子の向こうの世界だと思っていたお前が、こうやって腕の中にいるなんて。」
ぼくが思っていたことをそのまま返されて、ちょっとびっくりする。
「同じこと、思ってたんだ。」
「お互い手を伸ばせずに、硝子に隔てられることで安心してたのかもな。」
確かに。
一方的に見詰めているだけのほうが、心は穏やかだったかもしれない。
でも、彼が一歩を踏み出してくれたから、今がある。
彼の背中越しに、部屋の隅に詰まれたプレゼント包装された箱の山が目に入る。
楽しそうに笑っていた彼女さんの顔が、嫌でも思いされてしまう。
・・・二人は終ったのだろうか。
でも、この店がオープンしてからずっと見ていてくれたって。
「・・・あ。そういえば、彼女さんどうしたんですか?」
「彼女?」
「ほら。いつも一緒に店に来てた・・・。」
最悪なシナリオを聞きたくないから、最後まで彼の言葉を聞かずに飛び出した。
いい訳をする余裕さえ与えなかった。
ぼくが子供だったばっかりに、彼を傷つけ、可能性を消してしまうところだった。
どんな言葉でも、受け止めよう。
彼の瞳に嘘はないから。
「・・・お前のファンの女子高生みたいにはなれないだろ?
三十路過ぎた男が一人で入るには勇気が要るんだぞ?」
「・・・そうなんだ。」
ぼく自身は、留学中にそのあたりの感覚が随分とアメリカナイズされてしまったのかもしれない。
日本でも素敵な雑貨屋さんとか見かけると、調査・勉強とか思ってしまうしなあ。
そっか。でも、入りにくいのに勇気を出してくれたんだよね。
「自分にいい訳がほしかったのかもな。お前に近づくための。
たまたま稽古中にクリスマスプレゼントを交換するイベントがあって、
何選んだらいいかわかんなくてさ。
幼馴染の彼女に頼み込んで、同伴してもらったんだよ。
・・・彼女も、まあ、大きな声では言えない恋愛してるからな。
俺と出かけてたら両親も安心するんだとさ。
予想外にこの店をすんごく気に入って、向こうから連れて行ってくれ。
と言われるようになるとは思わなかったけど。」
「そっか。なんだか嬉しいです。いつも楽しそうに見ててくれてたから。」
ダイスケ。と彼のこと呼び捨てにするたびに、ジェラシーを感じてたけれど。
興味津々って感じで、楽しそうにお店の中をくるくると動き回っている様は、
ダイスケさんの彼女でなかったなら微笑ましく思えただろう。
「まあ、半分はアイツに持っていかれちゃったかな。」
今、ぼくは彼の腕に抱かれていて、彼の鼓動を感じている。
硝子の向こうの世界だと思っていた存在に、抱き締められている。
見詰めているだけでも美しくて、カッコヨクて、手の届かない憧れの存在だった。
彼の吐息が髪の毛を掠める。
一人ぼっちで凍えていた心が、彼の体温でじんわりと溶かされてゆく。
「京介・・・。」
「ん・・・。あれ?どうして名前・・・。」
名前を呼ばれ、何気なく返事をしてから、気がつく。
「レジ横に、名詞置いてあっただろ?」
「あ。そっか・・・。」
ぼくが思っている以上に、彼はぼくのことを見詰めていてくれたのだ。
触れるだけの掠めるようなキスが何度も落とされる。
ふわり。ふわり。と触れる優しさが、空から舞い降りてくる雪のようだ。
勝手に誤解してこの部屋を飛び出してしまった日は、雪が降るたびに悲しくなっていたのに。
今は、雪が温かく見守っていてくれるようにさえ思える。
「夢みたいだな。硝子の向こうの世界だと思っていたお前が、こうやって腕の中にいるなんて。」
ぼくが思っていたことをそのまま返されて、ちょっとびっくりする。
「同じこと、思ってたんだ。」
「お互い手を伸ばせずに、硝子に隔てられることで安心してたのかもな。」
確かに。
一方的に見詰めているだけのほうが、心は穏やかだったかもしれない。
でも、彼が一歩を踏み出してくれたから、今がある。
彼の背中越しに、部屋の隅に詰まれたプレゼント包装された箱の山が目に入る。
楽しそうに笑っていた彼女さんの顔が、嫌でも思いされてしまう。
・・・二人は終ったのだろうか。
でも、この店がオープンしてからずっと見ていてくれたって。
「・・・あ。そういえば、彼女さんどうしたんですか?」
「彼女?」
「ほら。いつも一緒に店に来てた・・・。」
最悪なシナリオを聞きたくないから、最後まで彼の言葉を聞かずに飛び出した。
いい訳をする余裕さえ与えなかった。
ぼくが子供だったばっかりに、彼を傷つけ、可能性を消してしまうところだった。
どんな言葉でも、受け止めよう。
彼の瞳に嘘はないから。
「・・・お前のファンの女子高生みたいにはなれないだろ?
三十路過ぎた男が一人で入るには勇気が要るんだぞ?」
「・・・そうなんだ。」
ぼく自身は、留学中にそのあたりの感覚が随分とアメリカナイズされてしまったのかもしれない。
日本でも素敵な雑貨屋さんとか見かけると、調査・勉強とか思ってしまうしなあ。
そっか。でも、入りにくいのに勇気を出してくれたんだよね。
「自分にいい訳がほしかったのかもな。お前に近づくための。
たまたま稽古中にクリスマスプレゼントを交換するイベントがあって、
何選んだらいいかわかんなくてさ。
幼馴染の彼女に頼み込んで、同伴してもらったんだよ。
・・・彼女も、まあ、大きな声では言えない恋愛してるからな。
俺と出かけてたら両親も安心するんだとさ。
予想外にこの店をすんごく気に入って、向こうから連れて行ってくれ。
と言われるようになるとは思わなかったけど。」
「そっか。なんだか嬉しいです。いつも楽しそうに見ててくれてたから。」
ダイスケ。と彼のこと呼び捨てにするたびに、ジェラシーを感じてたけれど。
興味津々って感じで、楽しそうにお店の中をくるくると動き回っている様は、
ダイスケさんの彼女でなかったなら微笑ましく思えただろう。
「まあ、半分はアイツに持っていかれちゃったかな。」