店を閉めて、大急ぎで彼の家に向かう。

店を出ると、ちらほらと雪が降り出した。

「やっぱり、大切な日は雨男なんだよな。ぼく。」

彼との出会いの日も。
彼が酔っ払ってケーキを潰してしまった日も。
落し物を届けた日も。

全てがいい思い出ではないけれど、それぞれの出来事がなければ、
今、ぼくはこうやって電車に乗ってはいない。

初めて通ったときは、不安と期待でドキドキしていた。
今は、あまやかなトキメキと、興奮が入り混じってトクントクンと鼓動が響く。
寒さのせいだけじゃなく、頬が紅潮している。

「・・・来てくれたんだ。」

インターホンを押すと、返事がないままドアが開けられ、はにかんだように照れた笑顔に出迎えられた。

「あのっ。ずっと大切にしてくださってありがとうございました。
ずっと貴方のことが、すっ・・・・。」

き。

の一文字は、彼の唇に奪われた。

やわらかな感触がゆっくりと離れていったかと思うと、
「優しいんだな。お前。」と言ってくれたときのような慈愛に満ちた愛おししげな眼差しで見つめられた。

「ずっと、好きだった。
来てくれたということは、うぬぼれてもいいのかな?」

「・・・はいっ。はいっ・・・・。」

こみ上げてくる熱い感情をこらえきれずに、ぎゅっと彼の背中に腕を回した。