「・・・これ、覚えているか?」
「・・・・あ。」
大切なものを扱うように彼がそっとポケットから出してきたのは、金細工を薄く加工したブックマーカーだった。
忘れる訳がない。
夢にみたこの店のオープンの日は、しとしとと雨の降る日だった。
「ぼくって、ほんと雨男だなあ。」
留学に旅立った日も雨で、傘をさしながら重いスーツケースを引きずっていったことを覚えている。
運動会も、誕生日も、友人と旅行をするときも。
大切な日だから絶対に晴れて欲しい、と願えば願うほど、なぜか雨が降る。
「・・・ま、反対に言えば、それだけ大切な日だってことだよな。」
晴天ぴっかりな青空に祝福されたかったなあ。とも思うけれど、
鬱々とした空はぼくらしい、と言えばぼくらしい。
水を含んで滑りやすくなった段ボールの山を、一人で黙々と店に運ぶ。
春の引越しシーズンにぶつかってしまったため、料金と時間の都合がつくのが平日の夕方しか空いてなかったのだ。
家族も友人も仕事の忙しい時期で頼ることもできず、それでも自分の夢が実現する興奮で寂しくはなかった。
「うわっと!」
西日が差してきたころ、焦って一気に積み上げて運ぼうとしたダンボールを道にぶちまけてしまう。
「あちゃー・・・。」
落した衝撃で中身がバラバラと道に散らばる。
梱包はしていけれど、雨がどんどん降ってきて商品を汚してゆく。
「うう。やっぱり雨なんて大っ嫌いだ。」
濡れてしまった商品を拾っていると、視界の端に綺麗な指先が見えた。
「・・・壊れてないといいけど。・・・はい。」
散らばってしまった商品を拾い集めてくれ、ぼくの手に渡してくれた。
傘をさしてはいるけれど、髪の毛がしっとりと濡れている。
通りすがりの名のないぼくのために足を止めてくれたんだと思うと嬉しくて。
「・・・何にもないですけど。お礼に。」
ぼくが初めてデザインした未熟だけれども、思い入れのあるブックマークを渡してしまった。
今、思えば一方的で迷惑な行為だったかな?あんな未熟な作品を渡してしまって恥ずかしい。と思うけれど、
あの時はそれしか思いつかなかったんだ。
「・・・あの時の・・・。」
傘が影になってはっきりと顔までわからなかったけれど。
不運続きで泣きそうだったぼくに、手を差し伸べてくれたのは、貴方だったんだ。
「出会ったときから、お前をー・・・。」
彼の唇が次の言葉を形どる前に、扉が開いて賑やかな女子高生の団体が入ってくる。
「・・・いらっしゃいませ。」
条件反射で営業スマイルを浮かべて、入り口に顔を向けると、彼の腕がぼくから離れる。
「・・・とにかく、誤解だから。それだけ伝えたかったんだ。」
真摯な瞳を真っ直ぐに向けてくる彼から、嘘は感じられなかった。
「・・・・あ。」
大切なものを扱うように彼がそっとポケットから出してきたのは、金細工を薄く加工したブックマーカーだった。
忘れる訳がない。
夢にみたこの店のオープンの日は、しとしとと雨の降る日だった。
「ぼくって、ほんと雨男だなあ。」
留学に旅立った日も雨で、傘をさしながら重いスーツケースを引きずっていったことを覚えている。
運動会も、誕生日も、友人と旅行をするときも。
大切な日だから絶対に晴れて欲しい、と願えば願うほど、なぜか雨が降る。
「・・・ま、反対に言えば、それだけ大切な日だってことだよな。」
晴天ぴっかりな青空に祝福されたかったなあ。とも思うけれど、
鬱々とした空はぼくらしい、と言えばぼくらしい。
水を含んで滑りやすくなった段ボールの山を、一人で黙々と店に運ぶ。
春の引越しシーズンにぶつかってしまったため、料金と時間の都合がつくのが平日の夕方しか空いてなかったのだ。
家族も友人も仕事の忙しい時期で頼ることもできず、それでも自分の夢が実現する興奮で寂しくはなかった。
「うわっと!」
西日が差してきたころ、焦って一気に積み上げて運ぼうとしたダンボールを道にぶちまけてしまう。
「あちゃー・・・。」
落した衝撃で中身がバラバラと道に散らばる。
梱包はしていけれど、雨がどんどん降ってきて商品を汚してゆく。
「うう。やっぱり雨なんて大っ嫌いだ。」
濡れてしまった商品を拾っていると、視界の端に綺麗な指先が見えた。
「・・・壊れてないといいけど。・・・はい。」
散らばってしまった商品を拾い集めてくれ、ぼくの手に渡してくれた。
傘をさしてはいるけれど、髪の毛がしっとりと濡れている。
通りすがりの名のないぼくのために足を止めてくれたんだと思うと嬉しくて。
「・・・何にもないですけど。お礼に。」
ぼくが初めてデザインした未熟だけれども、思い入れのあるブックマークを渡してしまった。
今、思えば一方的で迷惑な行為だったかな?あんな未熟な作品を渡してしまって恥ずかしい。と思うけれど、
あの時はそれしか思いつかなかったんだ。
「・・・あの時の・・・。」
傘が影になってはっきりと顔までわからなかったけれど。
不運続きで泣きそうだったぼくに、手を差し伸べてくれたのは、貴方だったんだ。
「出会ったときから、お前をー・・・。」
彼の唇が次の言葉を形どる前に、扉が開いて賑やかな女子高生の団体が入ってくる。
「・・・いらっしゃいませ。」
条件反射で営業スマイルを浮かべて、入り口に顔を向けると、彼の腕がぼくから離れる。
「・・・とにかく、誤解だから。それだけ伝えたかったんだ。」
真摯な瞳を真っ直ぐに向けてくる彼から、嘘は感じられなかった。