「・・・うそ、だったんですか?」

ぼくの作品が好きだと言ってくれた。
自分にはない才能だから、心惹かれ店を覗いていたんだと。
単に、彼女とのデートの口実でしかなかったのか。

想いが叶わないのなら。
せめて二人が笑っていてくれたなら。
彼がぼくの作品の中で、幸せを感じていてくれるならそれでいい。
と、何度も願い、あの作品たちを送り出したのだ。

何が真実なのかわからずに、悔しくて涙がこぼれる。

所詮、ぼくの存在など入り込む隙などなかったのだ。


「・・・もう、いいです。」

一口も口をつけることのなかったカップがほかほかと湯気を立てている。

まだ濡れて冷たいコートを乱暴につかむと、粉雪の舞う通りへと飛び出した。
彼の瞳が、一瞬ひどく傷ついたように見えたけれど、気がつきたくなかった。
嘘つき。裏切り者。
貴方が傷つく権利なんて、ないじゃないか。と罵ってしまいそうだったから。

馬鹿。馬鹿。
どうしてほんの僅かでも期待してしまったんだろう。
こんなことなら、会えなかったらよかった。

・・・ううん。ただの店主として、郵送すればよかったのだ。
路線図調べて、彼と同じ空気を吸って景色を見たいなんて自己満足だったのだ。

知りたくなかった真実。

硝子越しに眺めていただけのときのほうが幸せだったのかもしれない。

全身をズタズタに切り裂かれるような痛みに耐えながら、あふれ出てくる涙をこらえた。

たった数十分前に見たはずの景色なのに。
キラキラと輝いて見えたイルミネーションは、寂しげに光っていた。


それから、パタリ。と彼は店に来なくなった。


これで、よかったのだ。


小さいけれど、ぼくの夢の詰まった店で静かに暮らす。

馴染みのお客さんと他愛もない会話を交わす。

穏やかで、夢に描いたそのままの風景ではなかったか。


なのに。

彼がぼくの心にぽっかりと穴を開けていった。


気がつけば、硝子の向こうをぼんやりと見詰めてしまっている自分に気がつき、
真っ白なままの商品発注の伝票に慌てて視線を戻す。

「しっかりしろ。ぼく。」

彼は偶然通りかかっただけのお客さんなんだから。

ふう。と小さくため息をついて、のろのろとペンを走らせるのだった。