「・・・今日は早めに切り上げるか。」

窓の外は、しんしんと粉雪が舞っている。
華やかできらびやかなツリーやイルミネーションが街を飾り、幸せそうなカップルが通りを歩いている。

誰もこんな日に、ぼくのちっぽけな店なんて覗きはしない。

「あぶないなあ・・・。」

吞みすぎたのか、演技なのか。
明らかに足元のおぼつかない女の子が、ふらふらと道を逸れる度に、彼氏が腕を引き寄せている。

「女の子はいいよな。あんな風に甘えられて。」

もし、ぼくが女の子だったら。
出会いも少しは変わっていたのだろうか。
勇気を出して、可愛らしく「いつも来ていただいて、ありがとうございます。」
などと、彼の腕を取ることができたのだろうか。

・・・・あれ?

店のシャッターを閉めようとすると、時々壁に寄りかかりながらこちらにやってくる彼の姿が見えた。

「・・・あぶないっ!」

ちょうど壁に寄りかかった彼に、女の子が派手にぶつかる。

「わっ!」

思わず声を出してしまったのは、彼が手に持っていたケーキの箱が、彼と壁の間に挟まれてぐしゃり。と潰れてしまったから。
箱から飛び出したクリームが、べっとりとトレンチコートを汚す。
今からデートだったんだろうに。
気の毒に。と思う反面、このアクシデントにどこかほっとしている自分に気がついて嫌になる。

「ごめんなさいっ!わざとじゃ。ないんですっ!」

急にはっきりした口調になった女の子が、彼にぺこりと頭を下げる。

「・・・いや。いいよ。ぼーっとしていた俺も悪いから。」

泣きそうになる女の子の肩をさりげなく抱いて、彼氏が「すみませんでした。」と頭をさげ、立ち去ってしまう。

結局クリスマス・イブにかこつけていちゃつきたかっただけなんだろう。
迷惑だ、と腹を立てたいような、羨ましいような複雑な気持ちで二人を見送る。


残されたのは、クリームまみれの彼とぼくの二人っきり。
シンシンと静かに粉雪が舞う。