いつまでも傍にケイがいて。
一緒に笑っていてほしかった。
一人前になったな。ショウ。って頭を撫でてほしかった。

一人で生きていけるようになったかもしれないけど、
ケイに認めてもらえないと、虚しい。
何のために頑張ってきたんだろう?って思ってたよ。ずっと・・・・。



掻き集めても、搔き集めても、指先からさらさらと零れ落ちてゆく灰を胸に抱いて、
いつまで座り込んでいたのだろう。

冷たいコンクリートに突いた膝は、とうに感覚をなくしている。
握りしめた拳は血の気が失せている。

涙は枯果てて、頬に透明な筋が残る。
頬を撫でてゆく冷たい風が、心までもカラカラに乾かしてゆく。


すっかり闇夜に包まれて、寒さに感覚がなくなってきたころ、頭上から声がした。

「・・・ショウ?どうして、ここにいるんだ?」

顔を上げると、幻が目の前にいた。

「・・・え?ケイ?」
「・・・俺が、見えるのか?」

お互いに幻を見るように、おずおずと手を伸ばす。
指先がケイの肌に触れた瞬間、消えてしまうんじゃないか。とビクビクしながら、そっと頬に触れる。

「ショウ。あったかい・・・。」
「ケイも、・・・いつもの、ケイだ。」

触れられた指先は、ひんやりとしているけれど、ほっとできるケイの指先で。
何年も離れていたけれど、ケイの美しさも、日に焼けていないしっとりとした肌の質感も変わらない。
再会を喜んでくれるものだと思って、抱き締めようとすると、ケイが辛そうに視線を逸らす。

「・・・・どして?ケイ。嬉しく、ないの?」
「灰になったら終れると思っていた。でも、終れないんだな。自分で、自分の息の根を止めることさえできないんだ・・。」
「そんなっ・・・!」

ケイに再び会えて、オレはこんなに嬉しいのに。

「ごめんな。ショウ。そっと消えようと思っていたのに。存在するのが苦しくて。・・・ショウのこと、愛してるから。」
「・・・・っ!」

ふ。と悲しげに微笑んだ瞳。
今なら意味がわかるよ。ケイ。
保護者なんかじゃない。家庭の愛に飢えていたからでもない。
好き、の意味だってちゃんとわかってる。

愛してる。と、言ってくれるんだね。
なのに、どうしてそんな悲しそうな瞳をするの?
一人の大人だと認めてくれたから、愛してるって言ってくれたんじゃ、ないの?

「ケイ・・。ケイ。苦しかったでしょ?痛かったでしょ?灰になるってどんな気分?」

孤独に慣れすぎて。
誰よりも孤独を恐れていた。

「・・心臓、止まるかと、思った・・・!もう、こんな馬鹿なことしないと誓って?ケイ。
ちゃんと一人で生きてけるようになったよ?ケイ。・・・それでも、ケイのこと、忘れたことなんてなかった。
・・・ずっと、ずっと、好きだった。・・・オレも、愛してるっ!」

初めて使った言葉は、予想以上に甘い響きを持っていた。
声にしてしまうと、伝えれずにもやもやと心の中でわだかまっていたものがすっと引いてゆく。

枯れてしまったはずの涙が再びあふれてくる。

「・・・泣き虫だなあ。ショウは。」

震える肩をなだめるように、ケイがゆっくりと背中をさすってくれる。

「・・・また、子供扱いする。」

友達とケンカして、悔し泣きすると、いつもこうやってと頭を撫でてくれた。

「いくら図体がデカクなっても、俺にとってはガキだよ。」

子供扱いして。と拗ねながらも、数年前と変わらないケイの優しい指先にほっとする。

「・・・ねえ?ケイ。じゃあ、ずっとガキのままでいさせてよ。
ずっと傍にいて。・・・ずっと傍にいさせて?」
「・・・・。」

灰になってしまいたい。というほど、孤独に耐えられなかったというのに。
まだ、ケイは迷っている。

「・・・ケイの灰を見たときのオレの気持ち、わかる?
今度、あんなことあったら、オレがほんとに死んじゃうから・・・っ!」

ぎゅうっ!と今はほとんど体格の変わらなくなったケイを抱き締めた。