ここのところ、晴れの日が続いている・・・。
説明しようのない苛立ちが、身を焦がす。

夜は狩をし、血にまみれた身体をショウに見つからないように清める。
太陽さえ雲に隠れてくれれば、ショウと出かけることもできる。
かつては親子のように、今は兄弟のように。
自分が呪われた存在であることを忘れて、ショウと街を練り歩くのはとても楽しかった。

「もう、3日だぞ?俺のことはいいから、出かけろよ。ショウ。」
「・・・いい。」

ふるふると頭を振って、ベッドにもぐりこんでしまう。
十分すぎるぐらいの睡眠をとっているのに、眠いとも思えない。

「体調でも悪いのか?」
「ううん。だいじょうぶ。」

俺から離れようとしないのに、随分と口数が減ってしまった。
大切なことは、何も話しなくなってしまった。

「お前には、お前の世界があるだろうがっ!」

いい訳の聞かない子供のようにふてくされてベッドにもぐりこんでしまったショウの毛布を、がばっ!と引き剥がす。

ショウは無言のまま泣いていた。

「・・・なんで、泣くんだよ。」
「・・・なんでもない・・・。」

俺にとっては、ショウとの時間は永遠に続く命の中のほんの一コマに過ぎない。
だが、ショウにとっての今、この一瞬はあっという間に過ぎ去ってしまう日々だ。

俺の救世主の人生を、こんなくだらないバンパイアのお守りだけで終わらせてはいけない。
ショウの思慕が募れば募るほど、全身が歓喜に打ち震えるのに、闇に飲み込まれそうな恐怖が襲う。
また、別れのときがいつかやってくるのだ。と。
永遠など、存在しないのだと。

ならば、もう手を離してやらないといけないのではないか。と・・・。

・・・そろそろ、潮時だろうか。

「ショウ?お前は、もう一人でも生きてゆけるだろ?もう、俺は必要ないだろ?」

ストリートで孤児として生きていたショウ。
住処も、食事も、洋服も全て俺が与えた。

捨て猫を拾って世話するがごとく。
拾われたのは俺だったけれど、あのまま一人だったら、今頃ショウは飢え死んでいたかもしれない。

去年ショウも成人して、喫茶店のウエイターとして働いている。
器量よしで、真面目で、人当たりの柔らかな彼は、バイトとは言え、店長からも信頼されている。
本人さえ希望すれば、きっと正社員として迎えてくれるだろう。

見た目の幼さと頼りなさに比べて、随分とショウはしなやかな強さを持っている。
もし、俺がいなくなっても、十分一人で生きてゆけるぐらい成長した。

「ケイがいないと、意味がない・・・。」

意味もわからずに、残酷なことを言う。

「じゃあっ!じゃあ、どうしたいんだよ。こんな晴れた日に外も歩けないような生活して。
お前は生きる力に満ちていて、キラキラと輝いているというのに、こんな影の中でしか生きてゆけなうような生き方に付き合うと言うのか!?」

視線を逸らすショウの肩をつかみ、ガクガクと揺さぶる。
ショウが声を押し殺し、ぼろぼろと涙をこぼす。

「お願いだ・・・。ショウ。」

これ以上俺を苦しめないでくれ。
そんなに純粋な思いをぶつけないでくれ。

このままでは、自分に負けてしまう。

ショウの涙を見ているうちに、自分の中の思考がふらり、と揺れた。


「しょっぱい・・・。」

気がつけば、ショウの唇を塞いでいた。

ショウは小さく震えながら、瞳を閉じて次を待っているように見えた。

シャツをたくしあげ、痩せこけた少年から、しっとりとした筋肉のつく青年の身体へと変化した肌に唇を寄せる。

ショウがびくり。と震えて身体を緊張させる。

夢の中で何度も犯した身体に舌先を這わせる。
しっかりとした体温を持った肌は、夢の中の曖昧な感覚よりも俺を追い詰める。

ヤメロ・・!

頭の中で、もう一人の俺が叫ぶ。

ショウを傷つけては、いけない。
己の人生に巻き込んではいけない。

だが、ドクドクと流れる血脈が俺の理性を奪ってゆく。

うつくしくのけぞらされた真っ白い喉元を見た瞬間に、全てが弾けた。


「いたっ・・・・。」

小さく悲鳴をあげたショウの声と、口の中に広がる血液の味に我に返った。


「どうして、抵抗しないんだよっ!」

あやうく、吸血してしまうところだった。
ショウの”生”全てを否定してしまうところだった。

「・・・いいよ。ケイ。一人で寂しいんでしょ?オレが一緒にいてあげる。」

まるで、初めて出会ったあの日のように、ショウが天使のように微笑む。

「・・・馬鹿。意味もわからないくせに、軽々しくそんなこと言うな。」

バンパイアになること。
それは、すなわち犯罪者になること。

人の生を犠牲にし、終れない時を永遠に過ごさなければならない。