やけに明るく大きな月夜の夜--------。

俺たちは出会った。





”あの人”が死んだ。

この時がくるのを知っていたなずなのに、愛してしまった。
幸福だった日々は、遥か昔に色あせてしまった。
あの人は、皺だらけの手を伸ばして、誰か知らない人の名前を呼ぶ。
俺のことなど覚えていないけれど、「よく来たねえ。」と笑っていた。

違う誰かを呼ぶ声に、空虚を感じながらもその手を握り締めた。
俺のことを愛している。と抱き締めてくれた手は、すっかりしなびてしまった老人のものになってしまった。
それでも、存在してくれていることに安堵の吐息を漏らした。


あの人の終わりが一刻、一刻と近づく。

息をひそめるようにゆっくりと・・・。

俺はただ。

時間を止められたまま、彼女のときが移りゆくのを見守るしかできない。


最期を見届けることさえ、花束をたむけることさえできないまま、あの人の墓の前に立たずむ。
今夜はやけに月明かりが眩しい。

「どうして、俺を置いてゆく・・・。みんな、みんなそうだ。結局最後は一人・・・。」

何人もの恋人が、俺の中を通り過ぎていった。
彼女達は、記憶だけ残して、皆去ってしまう。
どんなに俺が永遠を誓おうとも、叶うことはない。


「もう、疲れたよ・・・。」


誰かの命を犠牲にしなければ、生きてゆけないこの呪われた身体。

誰のために生きるのか。何のために生きるのか。

そんなこと、もう覚えてはいない・・・。