予選大会当日。

内心の動揺を隠し切れない俺と反比例するように、いつものように馬場と談笑しながらウォーミングアップをしている。
ぐるぐる悩んでいたのは自分ひとりだったのかと思うと、なんだか拍子抜けだ。

「よし!ベストを尽くして来い!」
「はい!」

馬場とまおが互いにハイタッチをしてコートに入る。
一旦コートに入ってしまえば、二人とも幼馴染である気安さや甘えなんて微塵も感じらない。
きりり、と引き締まった表情で集中している横顔に、俺の中のスイッチも切り替わった。


サービスがすすむたびに、頭の中の邪念がどんどん洗い流されていって、目の前のゲームに夢中になる。
コートの外から見ている分だけ、相手の動きも心情もクリアに手に取るようにわかる。

なかなかガードが固く、どちらにも点が入らないままじりじりと時間だけが過ぎてゆく。
まおがラケットの面をひるがえして、すっと引いたところで馬場がバックヤードから打ち込む。
僅かなアイコンタクトだけでなされたやりとりに、相手チームも動きが読めなかった。

一点先取できたことで、相手にひるみができたのか。
まおが強気で突き崩して、僅かに生まれた隙に馬場が容赦なく打ち込む。
さすが!としか言いようのない連携プレーに思わず感嘆の声が漏れる。

顧問としてサポートするだけでも、こんなにも体の奥が熱くなるものだったのか・・・。
自然と湧き上がり、迸る感情がうねりとなって二人の元へと走ってゆく。

まだ予選だというのに。
ゲーム終了のホイッスルが鳴るころには、頬を熱いものが伝っていた。

ぽたぽたと流れる汗をユニフォームの袖でぬぐいながら、二人が戻ってくる。
乱れた息遣いの背中をさすってやりながら、全国につれて行ってあげる、というのはこういうことなのか。と思う。

薙が壊れてしまわなかった訳が、なんとなくわかった。

現役としてコートに入れなかったとしても。
同じモノを目指し、思いを共有する。

「よくねばったな。二人とも。」

「うん。あそこで、馬場っちがちゃんと受けてくれたから、流れが変わったんだよね。」
「俺っち、愛されてるからね。」
「愛じゃなくて、信頼でしょ~~。」

ちら。と挑戦的に視線を投げかけてくる馬場を見ても、
ムカつきはしない。
あははっ!と笑いあいながら、じゃれあう二人がただただ眩しかった。

「・・・ありがとうな。」
「なんで、そこで先生が感謝するんですか?」

まおとふざけあっていた馬場が、ふ。と我に返ったように聞きとがめる。

「・・・言いたいだけだよ。」
「ふーん・・・。ま、いいけど。」

すいっと背を向けた馬場が、まおの元へとふたたび駆け寄ってゆく。

「まお~。昼飯食べたら、学校戻ってラリーしよ?」
「ええっ!馬場っち今試合終ったばっかのに元気だね~。」

同感だ。と心の中でつぶやきながらも。

なんとなく、今は二りっきりにならないほうがいいような気がして、ほっとする。
余計な雑念は入れたくない。

ただまおを信じて待っていよう。と思った。