そーっと、そーっと鍵を開ける。
重くて無機質だけれども、懐かしいドアはぬくもりを感じる。
このドアの向こうには・・・・。
「・・・ただいま?大ちゃん?」
こそっと足音を忍ばせて、リビングに向かう。
もしかしたら、留守かもしれない。
それでも、ドキドキと早鐘を打つ胸の鼓動はうるさいぐらいだ。
リビングに入ったとたん、ふわっ。と空気が変わった気がした。
台本を胸に抱えたままソファで転寝している大ちゃん。
誕生日のグログをUPして、稽古も終って、きっとほっと息が抜けたのだろう。
すやすやと寝息を立てる様は、まるで陽だまりのようだ。
「・・・お疲れ様。」
ちゅ。と額にキスを落として、ベッドから毛布を運んできて掛けてあげる。
「ちょっと、痩せた?」
おれが知っている大ちゃんよりも、一回り肩のラインがシャープになった。
「・・・ちゃんと、食べてる??」
連日の稽古で、惣菜ものばかりになっていないだろうか。
きちん。と整頓された部屋は、何事にも手を抜けない大ちゃんの性格を表している。
「・・・ちょっとだけ、期待してたのになー・・・。」
もう。おれがいないと駄目なんだから。なんて言いながら脱ぎ捨てたままのシャツや靴下を拾って回るの。
あちこちに散らばった飲みのもののペットボトルを、抱えてめっ!って叱るの。
もちろん、自立した大人である大ちゃんがカッコいい。とは思うのだけれど、おれがいなくてもあまりにもキチン。と生活していてちょっぴり寂しくなる。
「・・・ああ。でも・・・。」
きっといただきものなのだろう。
ハロウィンをモチーフにした飾り物が棚に飾りっぱなしだ。
「今度は、クリスマスだよ。大ちゃん。」
なじみ尽くしたこの部屋に、おれの知らないものが存在することに微かな違和感を覚えるけれど。
大ちゃんだけの生活感なんだなあ。と思うとその違和感さえも愛おしい。
出しっぱなしになってしまっていた夏を彷彿とさせる硝子細工のオブジェを片付け、
秋を連想させる落ち着いた色合いのリースや、キラキラと輝くツリーや真っ赤なリボンのかかった箱を並べる。
ここに来る途中で買った花を花瓶に生け、キラキラと光を反射するモールを窓枠に飾り付ける。
テーブルには、ほかほかと湯気がたつ食事を用意して、ナイフとフォークを並べる。
胃に優しい秋シャケのホイル焼きと、ほくほくのかぼちゃを煮たものと、一口サイズに丸めたポテトフライ。
トクベツなものではないけれど、トクベツな日を祝うために、テーブルセッティングには気合を入れる。
あちらで選んできたムートンのふかふかのファーのついたコートのプレゼントを大ちゃんの頭元にセットして、
「よしっ!準備完了っ!!っと。あとは、大ちゃんが起きるのを待つだけ。」
ベッドから大ちゃんの香りのする布団を持ち出してきて、ぐるぐる巻きになってソファにもたれかかる。
耳のああたりを大ちゃんの髪の毛がくすぐって気持ちいい。
そのまんまにしてあったおれの机の上から、大ちゃんに勧められて、でもなかなか読みすすめることのできていなかった森鷗外の小説を取り出してきて、ページをめくる。
目は活字を追っているけれど、大ちゃんがいつ目覚めるのだろう。と気になってなかなかページをめくる手がはかどらない。
「・・・大ちゃん、まだかな・・・。」
やわらかな唇に、ちゅ。とキスを落として、規則正しく寝息を立てる胸の上に頭をもたれさせた。
ふわふわ。ふわふわ。と空に浮かぶ雲にのっかってただよっているような心地よいまどろみ。
いつの間にか、時差ぼけであくびばかりだったおれは、大ちゃんの目覚めを待つはずが、いつの間にか眠ってしまっていたんだ。
*
「・・・まお??」
ああ。今日も素晴らしい一日だった。
明日はもっと素晴らしい日にしよう。
台本を開きながら、ソファに沈み込んだ。
ふと、目が覚めるといつのまにか毛布がかけられ・・・・。
目の前には、ここに存在するはずのない天使が、すやすやと眠っていた。
「・・・え?ん?ここ、どこだっけ?今日俺の誕生日じゃなかったっけ??」
あまりにも幸福すぎる光景に、夢でも見ているのか?
それとも、望みすぎるあまり幻想を見ているのか??としばし混乱した頭で考える。
「・・・まお?」
それでも、そっと触れた髪の毛はしっかりと一本一本まで指先の間を滑り落ち。
手の甲で触れた頬は、滑らかな質感を伴ってあたたかい。
指先で唇にふれると、艶やかにぬれた唇が僅かに開く。
「・・・ほんもの?」
離れてしまってから、毎日、毎日思い浮べていたまおが目の前に存在している。
「帰ってきたのか?」
一言も帰国する。なんて言っていなかったのに。
ほんとうに、コイツの行動力にはまいる。
くしゃ。と頭をなでて、華奢な体の中にびっくりするようなパワーを秘めているつむじにくちづけた。
「ん・・・。」
まおが僅かに目を開ける。
「・・・大ちゃん・・・??ってっ!!!!っわわわっ!ごめんっ!おれ、寝ちゃってたねっ!!
あのっ。えっと。あーっ。誕生日、おめでとっ!!」
がばっ!と俺の胸の上から飛び起きて、ソファから落ちんばかりの勢いで動揺しまくっている。
ふふふっ。俺のことをおどろかすつもりで待っていたのに、実は自分が寝落ちした、ってやつだな。
まお越しに見える部屋の中は綺麗に飾りつけられ、疲れた胃が食欲をそそるような美味しそうな匂いが漂ってくる。
「・・・いっぱい、がんばってくれたんだな。まお。」
みるみるうちに、まおがかあぁ。と頬を染める。
「ありがとうな。」
ぽんぽんと頭を撫でてやると、大きな瞳をうるうると潤ませてくしゃり。と微笑む。
「大変だっただろ?ここまで帰ってくるのも。これだけの用意するのも。
そんなお前の気持ちが嬉しいよ。」
「・・・大ちゃん・・・・。」
いよいよ本格的に泣き出してしまったまおが、ふええ。と嗚咽をこらえながら俺のむねに飛び込んでくる。
「・・・会いたかったよお。会いたかった!!大ちゃんっ!」
「・・・俺もだよ。まお。」
慣れない遠い異国の地で頑張っているお前に負けないように。
心配させないように。
必死で心を強くもって頑張っていたんだ。
まさか、今日というこの日に。
この腕の中にお前を抱けるとは思ってなかったよ・・・。
話たいことはたくさんあるけれど。
今はただ、この腕の中のぬくもりだけを感じていたい。
泣きじゃくる涙を受け止めていたい。
重くて無機質だけれども、懐かしいドアはぬくもりを感じる。
このドアの向こうには・・・・。
「・・・ただいま?大ちゃん?」
こそっと足音を忍ばせて、リビングに向かう。
もしかしたら、留守かもしれない。
それでも、ドキドキと早鐘を打つ胸の鼓動はうるさいぐらいだ。
リビングに入ったとたん、ふわっ。と空気が変わった気がした。
台本を胸に抱えたままソファで転寝している大ちゃん。
誕生日のグログをUPして、稽古も終って、きっとほっと息が抜けたのだろう。
すやすやと寝息を立てる様は、まるで陽だまりのようだ。
「・・・お疲れ様。」
ちゅ。と額にキスを落として、ベッドから毛布を運んできて掛けてあげる。
「ちょっと、痩せた?」
おれが知っている大ちゃんよりも、一回り肩のラインがシャープになった。
「・・・ちゃんと、食べてる??」
連日の稽古で、惣菜ものばかりになっていないだろうか。
きちん。と整頓された部屋は、何事にも手を抜けない大ちゃんの性格を表している。
「・・・ちょっとだけ、期待してたのになー・・・。」
もう。おれがいないと駄目なんだから。なんて言いながら脱ぎ捨てたままのシャツや靴下を拾って回るの。
あちこちに散らばった飲みのもののペットボトルを、抱えてめっ!って叱るの。
もちろん、自立した大人である大ちゃんがカッコいい。とは思うのだけれど、おれがいなくてもあまりにもキチン。と生活していてちょっぴり寂しくなる。
「・・・ああ。でも・・・。」
きっといただきものなのだろう。
ハロウィンをモチーフにした飾り物が棚に飾りっぱなしだ。
「今度は、クリスマスだよ。大ちゃん。」
なじみ尽くしたこの部屋に、おれの知らないものが存在することに微かな違和感を覚えるけれど。
大ちゃんだけの生活感なんだなあ。と思うとその違和感さえも愛おしい。
出しっぱなしになってしまっていた夏を彷彿とさせる硝子細工のオブジェを片付け、
秋を連想させる落ち着いた色合いのリースや、キラキラと輝くツリーや真っ赤なリボンのかかった箱を並べる。
ここに来る途中で買った花を花瓶に生け、キラキラと光を反射するモールを窓枠に飾り付ける。
テーブルには、ほかほかと湯気がたつ食事を用意して、ナイフとフォークを並べる。
胃に優しい秋シャケのホイル焼きと、ほくほくのかぼちゃを煮たものと、一口サイズに丸めたポテトフライ。
トクベツなものではないけれど、トクベツな日を祝うために、テーブルセッティングには気合を入れる。
あちらで選んできたムートンのふかふかのファーのついたコートのプレゼントを大ちゃんの頭元にセットして、
「よしっ!準備完了っ!!っと。あとは、大ちゃんが起きるのを待つだけ。」
ベッドから大ちゃんの香りのする布団を持ち出してきて、ぐるぐる巻きになってソファにもたれかかる。
耳のああたりを大ちゃんの髪の毛がくすぐって気持ちいい。
そのまんまにしてあったおれの机の上から、大ちゃんに勧められて、でもなかなか読みすすめることのできていなかった森鷗外の小説を取り出してきて、ページをめくる。
目は活字を追っているけれど、大ちゃんがいつ目覚めるのだろう。と気になってなかなかページをめくる手がはかどらない。
「・・・大ちゃん、まだかな・・・。」
やわらかな唇に、ちゅ。とキスを落として、規則正しく寝息を立てる胸の上に頭をもたれさせた。
ふわふわ。ふわふわ。と空に浮かぶ雲にのっかってただよっているような心地よいまどろみ。
いつの間にか、時差ぼけであくびばかりだったおれは、大ちゃんの目覚めを待つはずが、いつの間にか眠ってしまっていたんだ。
*
「・・・まお??」
ああ。今日も素晴らしい一日だった。
明日はもっと素晴らしい日にしよう。
台本を開きながら、ソファに沈み込んだ。
ふと、目が覚めるといつのまにか毛布がかけられ・・・・。
目の前には、ここに存在するはずのない天使が、すやすやと眠っていた。
「・・・え?ん?ここ、どこだっけ?今日俺の誕生日じゃなかったっけ??」
あまりにも幸福すぎる光景に、夢でも見ているのか?
それとも、望みすぎるあまり幻想を見ているのか??としばし混乱した頭で考える。
「・・・まお?」
それでも、そっと触れた髪の毛はしっかりと一本一本まで指先の間を滑り落ち。
手の甲で触れた頬は、滑らかな質感を伴ってあたたかい。
指先で唇にふれると、艶やかにぬれた唇が僅かに開く。
「・・・ほんもの?」
離れてしまってから、毎日、毎日思い浮べていたまおが目の前に存在している。
「帰ってきたのか?」
一言も帰国する。なんて言っていなかったのに。
ほんとうに、コイツの行動力にはまいる。
くしゃ。と頭をなでて、華奢な体の中にびっくりするようなパワーを秘めているつむじにくちづけた。
「ん・・・。」
まおが僅かに目を開ける。
「・・・大ちゃん・・・??ってっ!!!!っわわわっ!ごめんっ!おれ、寝ちゃってたねっ!!
あのっ。えっと。あーっ。誕生日、おめでとっ!!」
がばっ!と俺の胸の上から飛び起きて、ソファから落ちんばかりの勢いで動揺しまくっている。
ふふふっ。俺のことをおどろかすつもりで待っていたのに、実は自分が寝落ちした、ってやつだな。
まお越しに見える部屋の中は綺麗に飾りつけられ、疲れた胃が食欲をそそるような美味しそうな匂いが漂ってくる。
「・・・いっぱい、がんばってくれたんだな。まお。」
みるみるうちに、まおがかあぁ。と頬を染める。
「ありがとうな。」
ぽんぽんと頭を撫でてやると、大きな瞳をうるうると潤ませてくしゃり。と微笑む。
「大変だっただろ?ここまで帰ってくるのも。これだけの用意するのも。
そんなお前の気持ちが嬉しいよ。」
「・・・大ちゃん・・・・。」
いよいよ本格的に泣き出してしまったまおが、ふええ。と嗚咽をこらえながら俺のむねに飛び込んでくる。
「・・・会いたかったよお。会いたかった!!大ちゃんっ!」
「・・・俺もだよ。まお。」
慣れない遠い異国の地で頑張っているお前に負けないように。
心配させないように。
必死で心を強くもって頑張っていたんだ。
まさか、今日というこの日に。
この腕の中にお前を抱けるとは思ってなかったよ・・・。
話たいことはたくさんあるけれど。
今はただ、この腕の中のぬくもりだけを感じていたい。
泣きじゃくる涙を受け止めていたい。