「稽古場で差し入れしてもらった!」

ドアを開けた大ちゃんが、嬉しそうに大きな箱を抱えている。

「何?もしかして、ケーキ?」
「ははっ。ご名答っ!って簡単すぎかあっ!」

毎日が楽しくて、充実キラキラっ!といった瞳で元気よく帰ってくる。
ちょっと例えは違うかもしれないけれど、大好きなことを徹夜でしたときって、何だかテンションがあがってしまって身体は疲れているはずなのに、妙に心はうきうきしている。
そんな感覚に似ているのだろうか。

どう考えたって、自分の誕生日も忘れちゃうぐらい忙しいはずなのに、
目の前にいる大ちゃんは疲れなんて微塵も感じさせない。


「一緒に食べよ?まお。」
「うんっ!」

パチン。と部屋の灯りを消して、ケーキの上に「3」と「2」を模ったキャンドルを灯す。
優しい気持ちになりたいときに、と買い集めていた色とりどりのアロマキャンドルをケーキの周りにぐるり。と並べる。
ゆらゆらと揺らめく炎を見詰めていると、心が落ち着いてくる。
少しずつ溶け出してゆく蠟が、二人の時間を紡いでくれる。

「・・・綺麗だね。」
「・・・・ああ。」

すぐに消してしまうのがもったいなくて、肩を寄せ合って静かな時間に浸る。
しっかりと重ね合わされた手のひらから、キャンドルの炎のように優しいぬくもりが伝わってくる。

「・・・ちょっと待ってて。コーヒーでも入れるね?」
「ああ。サンキュ。」

じわじわと溶け出した3と2が、意味を成さなくなってしまう前に。
と、席を立つ。

両の手のひらを顔の前で組んでおれを見上げる大ちゃんの瞳は、どこまでも穏やかで優しい。
そんな眼差しに包まれながら、コーヒーを丁寧に落とす。


「お待たせ。大ちゃん。」
ほかほかと湯気の立つマグカップを、両の手のひらに握って帰ってくると、大ちゃんがすうすうとソファで寝息を立てていた。

「・・・あれれ。今からが本番なのに・・・。」

元気いっぱい、に見えるけれど、閉じられた瞼からはやはり気を張っていたのだろう。という疲労も伺える。

「いいよ。ゆっくり休んでね。」

大ちゃんの頭を持ち上げて、ことん。と自分の膝の上に乗せる。

「いっぱい、いっぱい頑張った1年だったんだよね。」

それは、おれも同じ。
二人で、全力投球で夢を追いかけよう、と誓い合った。
未来の自分に胸を張れる自分でいよう。
お互いにともに過ごしたことを誇りに思える毎日にしよう。と決意を交わした。

この恋を、若かりしころの過ち、などと思いたくないから。


膝に感じる大ちゃんの重みが愛おしい。

安心しきった顔をして、おれに全てをゆだねてくれている。

「少しは、癒せる存在になったのかな・・・?」


昔は、「お前の笑顔を見てると癒されるわ~。」と言われても、なんだか子供扱いされているような気がして
素直に喜べなかった。
小動物を愛くるしい。と感じるような感覚で癒される。と言われている気がしたから。

でも、今おれの膝の上で寝息をたてている大ちゃんは、恐れを知らぬ赤ん坊のようだ。
ここにいれば、だいじょうぶ。
と、無防備な姿で抱きついてくる。

「昔は、おれのほうがいっつもこうやって寝ちゃってたよね。」

一緒にDVDを見ようと誘われても。
隣合せに台本を開いていても。
先にうつうつと夢の中に旅立ってしまうのはいつもおれで。

心地よいぬくもりに、うっすらと目を開けると、いつも大ちゃんのお腹があった。
眠ってしまったおれを膝に抱き、毛布に包んで自分の時間を過ごしていてくれた。
ああ。おれの居場所はここにある。と思いながら、ふたたび瞼を閉じるのだった。


「ねえ?大ちゃん。大ちゃんもここが安心できる場所だと思ってくれてる??」

おれは守るべきもの、ではなく、少しは心を委ねられる存在になっているだろうか。


柔らかな髪をすきながら、更に男っぽさを増した頬にそっとくちづけた。



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せっかくなので、11月6日当日にもう一本あげれるように、時間セットしておきますね^^
こんなほんわか。とできる大まおさんがやっぱり好き^^