俺が食事を作る側で、まおがダイニングテーブルにテキストを広げて課題を仕上げている。

うーん。と悩んでいる綺麗に巻いた形のいいつむじをぼんやりと眺める。
今、ここにいてくれることが、不思議だ。
こんな小さな頭と胸を張り裂けそうに悩ませて、実は俺のことを慕ってくれていたなんて。
まおと出会ったのは、ほんの数ヶ月前なのに、あっと言う間に恋に落ちてしまったのだな。と思う。
俺が知っているのは、まおのほんの一部分に過ぎないのだろう。ということも・・・。

ただ、そんなことで愛する資格がないだとか。
馬場に言われたから、ぐらぐらと不安になってしまうほど子供でもない。

俺なりに、強い意志で、覚悟を決めてまおに気持ちを伝えたのだから。
まさか、受け止める幸せまでついてくるとは思ってもいなかったが。

「・・・なあ。まお。馬場に俺達のこと、なんか話しした?」
「・・・なんかって?」

「ほら。付き合いだした、とか、そういうこと・・・。」

かあぁ!と一気に頬を染めたまおが、バタン!とテキストを閉じる。

「言うわけないでしょっ!!そんなことっ!」
「だよな~~。やっぱり、馬場は侮れん・・・。」

「もしかして、先生ばらしちゃったの?」
「いや。なんか、馬場のほうが勘付いていた。っぽかったから・・・。」

そんな恥ずかしいこと、してないよねっ!?とばかりに睨みつけてくる。

「うん・・・。先生に色々手伝ってもらうようになった。ってことは話したけどね。・・・そっか。俺が手伝えなくて悪かったな。ってちょっと寂しそうだった。」

ふ。とまおが視線を落として、先程までの威勢が引っ込む。
・・・やっぱり、まおもわかっているんだ。
きっと、教師だからだとか、同性だからだとか。
そんな理由で馬場が付き合いを反対するのではなく。
今まで一番信頼してきて、信頼されていると思っていた友人を傷つけてしまったのだろうことを。

「・・・振り回したら、許さないからな。って釘刺されたよ。」
「・・・もう。馬場っちったら・・・・。」

ふわ。とまおが表情を緩める。

「いい友人だよな。」
「・・・うん・・・。」

カタン。と椅子を鳴らして立ち上がったまおが、急に真剣な表情になって俺の手をぎゅ。と握り締める。
最初に見たときから惹かれた、あの澄んだ強い意志を放つ瞳で真っ直ぐに見詰められる。

「・・・ねえ。先生。俺は薙さんの左目にはなれないかもしれないけど。先生と薙さんの夢みた全国大会を見せてあげたい。馬場っちと二人で。」
「・・・ああ。そうだな。」

かつて叶えることができなかった夢。
俺たちは随分と遠回りをしてしまったけれど。
まおと馬場の二人ならば。
きっと、お互いを信じてどこまでも高みを目指してゆけるだろう。

この小さな背中に、家のことに対する責任感も、全国を目指す強さも。
友人を信頼する優しさも。
全部背負い込んで、ひたむきに頑張っている。

そして、俺にかつての夢を見せてあげる。と澄んだ瞳で言うのだ。

「まお・・・。まお。」

どこまでも真っ直ぐで穢れのない想いをぶつけられて、心が浄化されてゆくような気がした。

「愛してるよ。」

ぎゅ。と小さなぬくもりを抱き締めれば、

「全国行けたら、手、出してね。」

澄んだ瞳のまま、見上げられた。