「ちょ。大ちゃん、水撒きすぎだよ~~。」
「いいんだよ。これぐらいでっ!あっという間に干上がっちまうから。」

窓辺から続く、レンガ造りのテーブルに頬杖をついて大ちゃんを待っているのが、ぼくの日課。
留学から帰ってきて、小さいけれど、庭のある一軒家を郊外に購入した。
仕事には少々不便かもしれないけれど、落ち着いた雰囲気の街並みは穏やかな日々をプレゼントしてくれる。

新しい住宅の立ち並ぶ一角では、男二人暮らしであることを詮索してくる人もいない。
人の気配が感じられるぬくもりと、静けさ。
家を購入する時は、共同名義であることを不審がられたけど、従兄弟です。ということで押し通した。
大ちゃんの家に居候するんじゃんじゃなくて、二人で作り上げてゆく空間という実感がほしかったから。

たっぷりと水をもらって青々と茂る芝生が、光を反射する。
強すぎるぐらいの日差しに、目に入ってくる光が眩しい。

「ほらっ!まおも水浴びっ!!」
「わわわっ!!ちょっと待って!!」

大ちゃんが急に方向転換して、ホースの先をぼくに向けてくる。
勢いよく噴出した水が、ぼくのTシャツをびしゃびしゃにする。

「ひっど~~いっ!今、着替えたばっかなのに。」
「いいじゃん。いいじゃん。これ、終ったら一緒に風呂はいろ?デッキも打ち水効果で、あがってくるころには涼しくなってるよ。」
「それは、そうかもしんないけど・・・。」

水やりが終ったら、一緒に飲もうと思って冷蔵庫で冷やしてあるビールの存在を思い浮べる。

大ちゃんが、水を撒きまくったお陰で?ぷん。と香り立つ土と木の濡れた匂い。
さわ。とケヤキの木が影を作るデッキには、先程よりも心地よい風が流れ込んできた。

「・・・ん。確かに。悪くないね。」
「だろっ?」

ふにゃ。と目尻を下げて少年のように笑う大ちゃんは、30半ばとは思えないぐらいイキイキと若々しい。
まるで、この芝生の青さのようだ。

「・・・なんだか、年々若返ってるよね。大ちゃん。」
「そりゃあ、年下のかわいい恋人がいるからじゃねー?」

ぐいっと肩を抱き寄せられて、肌に張り付いたTシャツの冷たさが、大ちゃんの胸で温められる。

ああ。
安心する。

お互いを信じていたから、離れていても不安になることなんてなかったけれど。
やっぱりこうやって、腕の中でぬくもりを感じられるのは最高に幸せだ。

トクン。トクン。と脈打つ鼓動に、頬をくっつけた。

「何?今日は甘えただな。まお。」
「ん・・・。」

ケヤキの木が作ってくれる影で、大ちゃんの胸に顔をうずめた。

「・・・まお?」
「愛してるよ。大ちゃん。」

ぎゅ。と背中に腕をまわすと、厚みのある胸板からふわり。と太陽の匂いがした。


そんな、夏の一日。