「ギイ・・・。それ、一体どうしたの??」

自販機でギイの分のコーヒーも買ってから部屋に帰ると、彼の机の上には色とりどりの包み紙が山積みにされていた。

「今日って、バレンタインだったっけ・・・?」

こんなにたくさんのチョコやキャンディーを差し入れされるなんて、バレンタインデー以外に思いつかないんだけど。
どう考えても、今は10月。
早めのバレンタインと言うには無理がある。

胸の奥がざわつかない。と言えば嘘になるけど、ギイのみんなに対する態度を見ていると、さもありなん。と納得もする。
一年生の時は、ギイの視界にも入っていないだろう、と思い込んでいたぐらいの遠い存在だったぼくが、ここに存在するだけでも奇跡なんだから。

包み紙こそ、きらびやかで可愛らしいハロウィン仕様だけど、箱にプリントされたロゴは名のある高級なものばかり。

「ギイ。そんなに悪戯しに行ったの?」

さっき、学食で別れたばかりなのに。
手の中のパックのコーヒーが、とってもつまらないものに感じる。

「あー・・・。これ、帰りの廊下でもらった。そんなふてくされるなよ~~。お菓子に罪はないだろ?」
「・・・お菓子にはなくても、ギイにはあるの。」

このコーヒーと一緒に食べようと思って、売店で買ったハロウィン仕様のパッケージのマーブルチョコ。
こんな高級チョコやキャンディーを前にして、出せるわけがない。

「ほら。半分タクミにあげるから。」
「要らないよっ!それ、ギイにもらったものでしょ?」

ぱしっ!と差し出された腕を払うと、ギイが一瞬傷ついた顔を見せた。
本当はギイにだって罪はない。
ぼくが勝手にもやもやしているだけなのだから。

ふう。と小さく息をついたギイが、ぼくの腕を取る。

「行くぞっ!タクミ!」
「・・・え?どこに?」
「正真正銘、お菓子をもらいに、だよ。」

ぼくの腕を取ると、ぐいぐいと引っ張って、片っ端からドアをノックしては「トリックオアトリートっ!」と、おどけてみせる。
「ほら、タクミも!」
「・・・え?あ。うん・・・。」
ギイにつられるように、ぼくもギイの背中からひょこっと顔を出しておどけてみせる。

「おおっ!ギイっ!葉山~~!!そっか。今日はハロウィンだよな~~。」

思い出した。とばかりに笑いながら、部屋にストックしてあったポテトチップスの袋やら、メントスのチューブやらを掌に載せてくれる。

「大収穫だなあっ!タクミっ!」
「さすがは、ギイだよね。」
「お前、気がついてないなあ・・・。みんな、オレよりも葉山が部屋に訪ねてくるなんで珍しい。って喜んでたんだぞ?」
「・・・そうかなあ・・・。」
「・・・お前は、自分が思っている以上にみんなに愛されてるんだよ。」

みんなの人気者のギイに比べて、なかなかクラスに打ち解けることができなかったぼく。
今では、ギイと一緒にいることで、受け入れてもらえることができた。と思うけど。
ぼくが来てくれて、嬉しい。なんて・・・。

「ほら。タクミの分。」
「・・・え?」
「半分は、タクミにもらったものだろ?」
「・・・あ、うん・・・。」

「今日の学食サバの味噌煮だったからさ~。おいしかったけど、物足りない。ほらほら。せっかくだから、食べよ?」
「さっき、ごはん食べたばっかりじゃない。」

ぼくの突っ込みなんてよそに、いそいそと包み紙を開けてゆく。
必要以上に豪華なラッピングの施された箱と、ポテトチップスをパーティー開けした袋が並ぶ。

飾らないみんなからもらったお菓子を眺めていると、引き出しの中にあるマーブルチョコも並べてみたくなった。

「あのね・・・。ギイ。」

引き出しの奥にしまっておいたマーブルチョコと、ぬるくなってしまったパックのコーヒーを並べる。

「ぼくからの・・・・。」

言いかけて、突然に肩を抱き寄せられた。

「タクミからは、お菓子をもらわずに悪戯しちゃいたかったのに。」
「・・・ちょ。ギイ??」

「でも、一緒に食べようと思って用意してくれたのが嬉しい。
マーブルチョコ好きだけど・・・。お前も食べちゃってもいい?」
「やっ。んっ。」

ギイの掌に出されたカラフルなマーブルチョコ。

ぼくの口に、ぎゅ。と押し込まれて、条件反射で噛み砕くとぺろん。と唇を舐められた。

「ん・・・。おいし。タクミ味のマーブルチョコ。」
「ちょ。ギイってば~~。」

反論するために開いた口を、今度は吐息を奪うために塞がれた。


色とりどりの包み紙。

ギイのバックヤードを知るたびに、ぼくのことを好きでいてくれることがますます不思議になって、遠い存在に感じることがある。
このカラフルな包み紙たちは、みんながギイのことを好きである気持ちそのもの。
ぼくには、こんなに高級なお菓子で気持ちは表せないけれど、ギイがどこの誰であってもたまらなく惹かれたんだ。


「タクミは、タクミであるだけで、十分なんだから・・・。」

キスの合間にささやかれるギイの切ない声。

ごめんね。

トクベツ扱いされるのは、好きじゃないのも。
ぼくが落ち込んでしまうのを気にしてるのもわかってるのに。

些細なことでぐらぐらとしてしまうのは、ギイの生い立ちのせいじゃなくて、ぼくの心が弱いせい。
ギイに愛される自信がないせい。

それでも、ぼくがぼくであるだけで十分なんだよ。って伝えてくれる。

ぼくのやきもち。
ギイの苦しみ。

いつか、まるごと受け止めれるようになりたいな・・・。


何の変哲もないマーブルチョコは、きらびやかな包み紙を羨ましく思いました。

ぼくのコイビトは、美しく飾りたてたお菓子の中から、「これが一番すき。」とぼくを選んでくれました。

世界中の誰からも、見向きもされなくても。

一番食べてもらいたい人に、食べてもらえるならば、大量生産のマーブルチョコでも幸せだな。

と、思った瞬間でした。




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ギイの机の上に山盛りのお菓子。の映像が浮かんでからのお話でした^^
「ギよイが空から降ってきた。」は、こっちが元ネタでした~W
全く違う話になったけどねW

さて。

明日はアメンバーのくるかおちゃんのお宅にお邪魔させていただいて、またまたお絵かき大会??
なので、今日は崎谷はるひさんの藍君のお話でも読みながらそろそろ寝ます^^

そろそろ果てしない~を仕上げたいけど・・・。
ちょっと、無理かな・・・。

この時期だけは、テレビっ子になる私でした(笑)