まおが飛び立ってから一ヶ月が経つ。

最初の頃こそ、腕の中に当たり前のようにあったぬくもりを急に失った物足りなさに寂しい思いをしたけれど。
まおから送られてくる何気ない日常のメールを眺めながら、不思議と穏やかな気持ちになっている自分に気がつく。

まおが違う世界に飛び込んでゆくこと。
俺の側から離れることに、恐怖を覚えた。

それと、同時に俺だけでいいのか?というモヤモヤがずっとひっかかっていた。

まおと出会うのが、あまりにも早すぎた、とも言えるだろう。
あまりにも無防備で、時折宇宙人のような価値観と言葉で話をする。
・・・いわゆるジェネレーションギャップってやつを感じたこともあった。

「大ちゃんだけだよ。こんなふうにときめくの。」
「大ちゃんって、こんな人間いるの?ってぐらい完璧で、尊敬する。」
「こんなに人を好きになったのって、初めて。」

真っ直ぐで飾り気のない言葉をぶつけられるたびに、嬉しくて仕方がなかった。
コイツ、わざとか?って思うぐらい、心の奥をくすぐられた。


「まお。これ、好きだろ?」

まおの好物だと知って、わざわざスーパーのお菓子コーナーで仕入れてきたアンパンマンのグミを手のひらに握らせる。

「わあ!ありがと~~っ!・・・でも、昨日お母さんからお菓子食べすぎだって怒られたんだよね。虫歯もできちゃったし・・・。」

食べたいけど、我慢しなきゃ。ってしゅんとうなだれるまおを見て、かわいいと思う反面、まおの見ている世界の小ささに気がついてしまった。

まおの今まで生きてきた人生って、たったの16年間だろ?
しかも、まだ中学を卒業したばかりで、学校と芸能界の世界だけが、全て。
出会った人間だって限られてるし、これから、もっともっと色んな人間と出会うだろう。

そう考えると、無性に不安になった。


懐いてくれるのがとてつもなく嬉しい反面、いつかはもっと尊敬できる、好きになる人間が現れて俺のことなんてあっさり忘れるんじゃないだろうか。と・・・・。

得体の知れない、モヤモヤ・ザワザワは必要以上に愛をささやいたり、腕の中に閉じ込めたりすることで押しやっていた。


まおが、俳優を辞めてデザインの道を歩むと決めたとき。

反対しながらも、どこかでほっとしていたのかもしれない。
まおが、自分の意思で選んだことに。

いよいよ。このときがきたのか。と諦めにも似た覚悟ができたのかもしれない。


お菓子を食べすぎて、母にとがめられていた頃とは違う、大人になって色んな価値観や人々と出会い刺激を受けてきたまおが、自分の意思で歩き出している。

その時に・・・・。

俺は、やっぱりお前の側にいれたんだ。


「以上!本日の報告~~。じゃあ、おやすみなさい。愛してるよ。CU」

画面をスクロールさせて、最後の一行を読む。


遠く離れても、自分が憧れる才能を持った人々に囲まれても。
狭い日本を飛びだして、様々な価値観に触れても。

変わらず俺のことを好きだよ。って言ってくれる。


腕の中に抱くことはできないかもしれないけど。

愛されている、愛している実感は今までで最高に感じている。


青空に羽ばたく真っ白な羽根。

まおの眩しいぐらいの背中が、空に溶け込んだ。



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なんだか、どーしてもかきたくなったこのお話^^
むしろ、今が一番幸せなのかもしれないね。大ちゃん^^