「秋だねえ・・・。」
「秋だなあ・・・。」
中庭で赤池君と並んでのんびりと空を見あげる。
学食で買ったメロンパンとハンバーグ弁当を膝に乗せて、はらはらと舞い降ちるもみじのはっぱを眺める。
鮮やかな紅と、真っ青な空とのコントラストが、まるで絵に描いたようだ。
「なんか、平和だね。」
「・・・そうだな。」
ここにギイが加われば、一気ににぎやかさが増すにちがいない。
おにぎりをかじりながらのんびりと空でも見上げようものなら、あっと言う間にぼくのお昼ごはんは、ギイのブラックホールの胃袋へと消えていっただろう。
「・・・なんか、お腹いっぱいになっちゃった・・・。」
「お前、まだその癖治んないのかよ。もったいない。」
「だって・・・。」
こんなふうに中庭でお弁当を広げて食べるときには、ギイに横取りされることを想定して、余計に用意してしまうのだ。
彼の場合は、ちょっとぐらい食べたりなくても、ランチタイムに廊下を歩くだけで差し入れがわんさかと集まってくるから困らないんだけどね。
でも・・。それって恋人としてなんだか複雑なんだよね。
あんなにたくさん食べるのに、全部筋肉に変わっているのか、どこに消費されていっているのか。
学生をしながらも、仕事をこなしているらしい激務を思えば、消費しているクチかな?
・・・まあ、夜の運動も激しかったんだけど・・・///
なんて、ギイと同室だった時代を思い出して赤面する。
「今頃、何してるかなぁ・・・。ギイ。」
「季節は一緒だから、今頃同じように紅葉を眺めてるかもな。」
「そんな余裕があったらいいけど・・・。」
「・・・だな。」
仕事が目いっぱいあったのに、わがままを言って日本のこんな山奥祠堂学院に入学してきたギイ。
世界的企業の御曹司なのに、ぼくに会うためだけに海を越えて会いにきてくれた事実が、今でもなんだか信じられない。
バラバラバラっ!!
秋の平和でのどかな空気を轟音が切り裂く。
「わっ!わっ!わっ!!なにこれっ!?」
いわゆるセスナというやつだろうか。
豪風とともに、大量の紙切れが空から降ってくる。
「・・・ハロウィンパーティーのお誘いだとさ。」
赤池君が、ひらひらと紙切れをぼくに見せてよこした。ウインクつきで。
「ハロウィンパーティー??」
去年の今頃は、勝手に勘違いして嫉妬して。
ギイの優しさに気付いてあげることができなくて、すれちがって。
「・・・懐かしいなあ。あれから、もう一年か。」
鮮明に思い出せるけど、ギイがいなくなってからの一年はあまりにも長い。
ギイと過ごした時間に思いを馳せながら、紙切れの文面に目を走らせる。
10月最後の日!
みんな盛り上がろうではないか!
夜10時より、祠堂学園内にてハロウィンパーティーを開催します。
流暢な文字で最後にギイ。と結んである。
「えっ・・・?ギイっ!?」
慌てて空を見上げると、セスナから白馬の王子様よろしく降りてくるギイの姿があった。
「ただいま、たくみ。」
「えっ。えっ。ええっ!?」
驚きのあまり棒になってしまったぼくの頬に、ちゅ!と綺麗な音を立ててキスをされた。
「もうっ!連絡もなしに急に帰ってくるなんてっ!」
「悪い、悪い。スケジュールギリギリまでわかんなかったから、約束してドタキャンになったら期待させた分、余計にがっがりさせちゃうな。と思って。」
もっと感動的な再会を想像していたのに、あまりに突拍子のない登場に感動よりも驚きのほうが勝ってしまった。
「感動の抱擁は?タクミクン。」
ニコニコと笑いながら、両手を広げて待っているギイ。
「もうっ!もうっ!!何の連絡もなしに消えちゃったから、どうしようかと思った・・・!ギイの、馬鹿っ!!」
やっと文句を言えたことに安心して、じわあ。と涙があふれだす。
ここが公共の中庭であることなんてすっかり忘れて、やっと再会できた腕の中に飛び込んだ。
「ごめん。ごめん。タクミ。仕事片付けるまでは、お前との連絡もしないって約束だったからさ。」
ぽんぽんとあやすようにぼくの頭を撫でてくれる。
・・・本当はわかってる。
ギリギリまで仕事を頑張って無理して会いにきてくれたんだ。ということを。
派手な登場は決して目立ちたかったわけではなく、ぼくに気を遣わせまいとしたギイの心配りだということも。
「・・・ま、ギイらしいっちゃ、ギイらしいけどな。」
おーおー!
おぼっちゃんのすることは、やっぱ派手だねえ!
高校生がセスナで登場だってさ。
なんて、爆風を手のひらでさえぎりながら、感心している赤池君だって、きっとわかってる。
「・・それにしても、ギイ。お前、学院退学したってのに、ここでパーティするつもりかよ。」
「階段長の許可が下りれば、可能だろ?学院長の許可はとってるぞ。」
「・・・根回しのいいことで。」
呆れたように肩をすくめる赤池君だって、急ににぎやかな毎日が戻ってきたようで嬉しそうだ。
「・・・だってさ~。野沢。矢倉。吉沢~~。」
何ごとか?と集まってきた面子に赤池君がのんびりと声をかける。
「反対のわけ、ないよな?」
にっこり、と否という可能性を忘れそうな完璧な微笑でギイが各階段長をぐるりと見渡す。
「・・・階段長会議、開くまでもないよな。」
「ギイの部屋、実はまだあのまんまだよ。」
ギイが退学してしまっても、にわかにはみんな信じがたくて、301番は空室のままになっていた。
途中から他の誰かが階段長を努める。というのは、推薦された人間も荷が重かっただろうし、認めにくくもあった。
なので、不便を承知で各階段長が3階をおのおのフォローするという形に落ち着いたのだ。
301番は主のいない部屋なのではなく、長期休業中なのだ。という扱いにみんなの心の中でなっていた。
「さて!久しぶりに階段長がみんなそろったことだし、今日はギイの部屋で朝まで飲み明かしますか!」
「げっ!なんでオレの部屋なんだよ。」
「そりゃ、何の相談もなしにドロン!と消えちゃったペナルティーだろ。」
「そうそう。秘密主義なのは、仕方がない部分もあると思ってたけど、ちょっとぐらい俺たちを頼ってくれてもよかったのになあ。」
「ギイのこと信じてたけど。あまりにもあっけなかったから、悪い夢でも見てんのかと思ったよ。」
口々に3人から攻め立てられて、逃げ腰になりながらも表情は嬉しそうだ。
やっぱり、ギイって愛されてるんだよね。
「だって、久しぶりのタクミとの逢瀬はどうなるんだよ~。」
「もちろん、葉山も誘ったらいいじゃん。」
「点呼は任されたらいいのかな?葉山君。ちなみに、今日は久しぶりの息抜きで、真行寺の部屋に泊まるから。」
どこから聞いていたのか、突然三洲君の声がする。
それって、それって、アルコールが入って盛り上がってきたらこっそり二人で抜けてきたらいいだろ。てことだよね。
三洲君・・・。
医大受験を控えて、最近は連日消灯を過ぎても勉学にいそしんでいるというのに、ぼくのためにさりげなく気を遣ってくれることがたまらなく嬉しい。
「じゃ、打ち合わせ兼ねて、飲み会ってことでっ!!」
「口実だけの気がするけどね・・・。」
赤池君が腕組みしながら、突っ込みを入れる。
だけど、咎める、という風ではなく、見守ってくれている感じだ。
「全く、風紀委員の前でよく堂々と酒盛りの相談ができるもんだよ。階段長ともあろう輩が・・・。」
ふう。と大きくため息をつく赤池君に、ちょびっとだけ同情した。
「秋だなあ・・・。」
中庭で赤池君と並んでのんびりと空を見あげる。
学食で買ったメロンパンとハンバーグ弁当を膝に乗せて、はらはらと舞い降ちるもみじのはっぱを眺める。
鮮やかな紅と、真っ青な空とのコントラストが、まるで絵に描いたようだ。
「なんか、平和だね。」
「・・・そうだな。」
ここにギイが加われば、一気ににぎやかさが増すにちがいない。
おにぎりをかじりながらのんびりと空でも見上げようものなら、あっと言う間にぼくのお昼ごはんは、ギイのブラックホールの胃袋へと消えていっただろう。
「・・・なんか、お腹いっぱいになっちゃった・・・。」
「お前、まだその癖治んないのかよ。もったいない。」
「だって・・・。」
こんなふうに中庭でお弁当を広げて食べるときには、ギイに横取りされることを想定して、余計に用意してしまうのだ。
彼の場合は、ちょっとぐらい食べたりなくても、ランチタイムに廊下を歩くだけで差し入れがわんさかと集まってくるから困らないんだけどね。
でも・・。それって恋人としてなんだか複雑なんだよね。
あんなにたくさん食べるのに、全部筋肉に変わっているのか、どこに消費されていっているのか。
学生をしながらも、仕事をこなしているらしい激務を思えば、消費しているクチかな?
・・・まあ、夜の運動も激しかったんだけど・・・///
なんて、ギイと同室だった時代を思い出して赤面する。
「今頃、何してるかなぁ・・・。ギイ。」
「季節は一緒だから、今頃同じように紅葉を眺めてるかもな。」
「そんな余裕があったらいいけど・・・。」
「・・・だな。」
仕事が目いっぱいあったのに、わがままを言って日本のこんな山奥祠堂学院に入学してきたギイ。
世界的企業の御曹司なのに、ぼくに会うためだけに海を越えて会いにきてくれた事実が、今でもなんだか信じられない。
バラバラバラっ!!
秋の平和でのどかな空気を轟音が切り裂く。
「わっ!わっ!わっ!!なにこれっ!?」
いわゆるセスナというやつだろうか。
豪風とともに、大量の紙切れが空から降ってくる。
「・・・ハロウィンパーティーのお誘いだとさ。」
赤池君が、ひらひらと紙切れをぼくに見せてよこした。ウインクつきで。
「ハロウィンパーティー??」
去年の今頃は、勝手に勘違いして嫉妬して。
ギイの優しさに気付いてあげることができなくて、すれちがって。
「・・・懐かしいなあ。あれから、もう一年か。」
鮮明に思い出せるけど、ギイがいなくなってからの一年はあまりにも長い。
ギイと過ごした時間に思いを馳せながら、紙切れの文面に目を走らせる。
10月最後の日!
みんな盛り上がろうではないか!
夜10時より、祠堂学園内にてハロウィンパーティーを開催します。
流暢な文字で最後にギイ。と結んである。
「えっ・・・?ギイっ!?」
慌てて空を見上げると、セスナから白馬の王子様よろしく降りてくるギイの姿があった。
「ただいま、たくみ。」
「えっ。えっ。ええっ!?」
驚きのあまり棒になってしまったぼくの頬に、ちゅ!と綺麗な音を立ててキスをされた。
「もうっ!連絡もなしに急に帰ってくるなんてっ!」
「悪い、悪い。スケジュールギリギリまでわかんなかったから、約束してドタキャンになったら期待させた分、余計にがっがりさせちゃうな。と思って。」
もっと感動的な再会を想像していたのに、あまりに突拍子のない登場に感動よりも驚きのほうが勝ってしまった。
「感動の抱擁は?タクミクン。」
ニコニコと笑いながら、両手を広げて待っているギイ。
「もうっ!もうっ!!何の連絡もなしに消えちゃったから、どうしようかと思った・・・!ギイの、馬鹿っ!!」
やっと文句を言えたことに安心して、じわあ。と涙があふれだす。
ここが公共の中庭であることなんてすっかり忘れて、やっと再会できた腕の中に飛び込んだ。
「ごめん。ごめん。タクミ。仕事片付けるまでは、お前との連絡もしないって約束だったからさ。」
ぽんぽんとあやすようにぼくの頭を撫でてくれる。
・・・本当はわかってる。
ギリギリまで仕事を頑張って無理して会いにきてくれたんだ。ということを。
派手な登場は決して目立ちたかったわけではなく、ぼくに気を遣わせまいとしたギイの心配りだということも。
「・・・ま、ギイらしいっちゃ、ギイらしいけどな。」
おーおー!
おぼっちゃんのすることは、やっぱ派手だねえ!
高校生がセスナで登場だってさ。
なんて、爆風を手のひらでさえぎりながら、感心している赤池君だって、きっとわかってる。
「・・それにしても、ギイ。お前、学院退学したってのに、ここでパーティするつもりかよ。」
「階段長の許可が下りれば、可能だろ?学院長の許可はとってるぞ。」
「・・・根回しのいいことで。」
呆れたように肩をすくめる赤池君だって、急ににぎやかな毎日が戻ってきたようで嬉しそうだ。
「・・・だってさ~。野沢。矢倉。吉沢~~。」
何ごとか?と集まってきた面子に赤池君がのんびりと声をかける。
「反対のわけ、ないよな?」
にっこり、と否という可能性を忘れそうな完璧な微笑でギイが各階段長をぐるりと見渡す。
「・・・階段長会議、開くまでもないよな。」
「ギイの部屋、実はまだあのまんまだよ。」
ギイが退学してしまっても、にわかにはみんな信じがたくて、301番は空室のままになっていた。
途中から他の誰かが階段長を努める。というのは、推薦された人間も荷が重かっただろうし、認めにくくもあった。
なので、不便を承知で各階段長が3階をおのおのフォローするという形に落ち着いたのだ。
301番は主のいない部屋なのではなく、長期休業中なのだ。という扱いにみんなの心の中でなっていた。
「さて!久しぶりに階段長がみんなそろったことだし、今日はギイの部屋で朝まで飲み明かしますか!」
「げっ!なんでオレの部屋なんだよ。」
「そりゃ、何の相談もなしにドロン!と消えちゃったペナルティーだろ。」
「そうそう。秘密主義なのは、仕方がない部分もあると思ってたけど、ちょっとぐらい俺たちを頼ってくれてもよかったのになあ。」
「ギイのこと信じてたけど。あまりにもあっけなかったから、悪い夢でも見てんのかと思ったよ。」
口々に3人から攻め立てられて、逃げ腰になりながらも表情は嬉しそうだ。
やっぱり、ギイって愛されてるんだよね。
「だって、久しぶりのタクミとの逢瀬はどうなるんだよ~。」
「もちろん、葉山も誘ったらいいじゃん。」
「点呼は任されたらいいのかな?葉山君。ちなみに、今日は久しぶりの息抜きで、真行寺の部屋に泊まるから。」
どこから聞いていたのか、突然三洲君の声がする。
それって、それって、アルコールが入って盛り上がってきたらこっそり二人で抜けてきたらいいだろ。てことだよね。
三洲君・・・。
医大受験を控えて、最近は連日消灯を過ぎても勉学にいそしんでいるというのに、ぼくのためにさりげなく気を遣ってくれることがたまらなく嬉しい。
「じゃ、打ち合わせ兼ねて、飲み会ってことでっ!!」
「口実だけの気がするけどね・・・。」
赤池君が腕組みしながら、突っ込みを入れる。
だけど、咎める、という風ではなく、見守ってくれている感じだ。
「全く、風紀委員の前でよく堂々と酒盛りの相談ができるもんだよ。階段長ともあろう輩が・・・。」
ふう。と大きくため息をつく赤池君に、ちょびっとだけ同情した。